知的財産推進計画2025とAI技術の進展を踏まえた発明等の保護
地域:日本
業務分野:知財一般、特許
カテゴリー:法令、その他
1. 知的財産推進計画2025
知的財産推進計画2025が発表された。
2025年6月3日知的財産戦略本部「知的財産推進計画2025
~IP トランスフォーメーション~」
出典:首相官邸ホームページ
URL:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/chitekizaisan2025/pdf/suishinkeikaku.pdf
知的財産推進計画2025は、AI 技術の進展を踏まえた発明等の保護について、発明者の在り方等の諸論点について早期に結論を得ることを求めており、人工知能(AI)の時代の知的財産制度について、前進した内容となっている。
2.人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律
なお、人工知能(AI)の時代の法制度については、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が成立している。人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律は、AI法、AI推進法、AI活用推進法、AI新法などと呼ばれている。AIの時代の知的財産制度については、動きが急速となっており、知的財産推進計画2025と合わせて検討が必要と思われる。
3.行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン
また、デジタル庁においては、2025 年(令和7年)5月27日デジタル社会推進会議幹事会決定「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」が策定されており、生成AIの利活用が推進されている。
出典:「『行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン』を策定しました」(デジタル庁)
URL:https://www.digital.go.jp/news/3579c42d-b11c-4756-b66e-3d3e35175623
AI法や行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドラインに示されるように、民間においても、AIの利活用の促進が重要となっている。
4.知的財産推進計画2025とAI発明
知的財産推進計画2025の内容は多岐にわたるが、本稿では、AI 技術の進展を踏まえた発明等の保護に関する記載を検討する。
AI発明が保護されるか、また、AIが発明者になれるかについては、裁判で争われており、未解決の問題である。裁判例も立法による解決の必要性を述べている。
「特許法の制定当初から直近の法改正に至るまで、近年の人工知能技術の急激な発達、特にAIが自律的に「発明」をなし得ることを前提とした立法がなされていないことは、原告が主張するとおりである。しかし、特許権は天与の自然権ではなく、「発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」ことを目的とする特許法に基づいて付与されるものであり、その制度設計は、国際協調の側面も含め、一国の産業政策の観点から議論されるべき問題である。」(人工知能ダバス(DABUS)に関する令和7年1月30日知財高裁判決(令和6年(行コ)第10006号 出願却下処分取消請求控訴事件))。
「・・・まずは我が国で立法論としてAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されているものであることを、最後に改めて付言する」(令和6年5月16日東京地裁判決(令和5年(行ウ)第5001号 出願却下処分取消請求事件)。
知的財産推進計画2025は、18頁~20頁において、AI 技術の進展を踏まえた発明等の保護について、発明者の在り方等の諸論点についての検討が必要であることを述べている。18頁において、AIが自律的に生成した発明についても言及されている。また、AIを利用した発明については、たとえば、20頁において、「・・・使用した生成AI の開発者(学習データの選択、ファインチューニングを行った者等)や利用者(プロンプトを入力した者等)、発明の効果を確認した者が含まれ得るか否か、含まれる場合の類型や判断手法、国際調和等の論点について、共有関係の複雑化による特許発明の社会実装の阻害につながらないことへも留意しつつ、議論することが求められる。」と述べている。
また、知的財産推進計画2025の20頁は、「これら状況を踏まえ、現在、産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会においてAI 技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方等について具体的な検討が求められているところであり、発明者の在り方等の諸論点について早期に結論を得ることが求められる。」と述べており、産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会で、発明者の在り方等の諸論点について早期に結論を得ることを求めている。
5.AI発明についての産業構造審議会知的財産分科会での検討
AI発明については、現在、産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会で検討がなされている。
「特許制度に関する検討課題について」産業構造審議会知的財産分科会 第53回特許制度小委員会(令和7年4月22日)では、17頁の表において、具体的な検討事項として、①発明該当性、②発明者、③引用発明適格性などが挙げられている。AI発明(AIが自律的にした発明)についての発明該当性や、AI発明に対して、AIを発明者として認めるべきか、なども検討事項となっている。
出典:特許庁ウェブサイト
URL:https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/53-shiryou/01.pdf
また、産業構造審議会知的財産分科会第53回特許制度小委員会議事録3頁には、AI開発者への権利付与の在り方、共同発明の在り方について、「対応の方向性ですが、内閣府知財事務局の委員会においても、類似の問題提起が行われており、利用したAIの開発者、例えば、学習データの選択やファインチューニングを行った者や、利用者、プロンプトを入力した者など、発明の効果を確認した者、これらの者が発明者に含まれるかどうか、含まれるとすると、その類型や判断手段の検討が必要ではないかとの議論がございます。本小委員会では、これらも発明者の論点に含めたらどうかと考えております。」と記載されている。
出典:特許庁ウェブサイト
URL:https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/index/newtokkyo_053.pdf
このように、AI発明については、知的財産推進計画2025で言及され、産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会での検討が行われている。
AI発明についての立法がなされた場合、特許実務のみならず、日本の産業全体にも大きな影響があると思われる。この点については、AI発明が認められた場合のシナリオ分析を行っている。
なお、AI研究者の間では、急速なAIの性能向上について認識が深まっており、AIの自律発明は現在の問題として検討する必要があると思われる。すでにAIが科学論文を自動生成して査読に通った事例がある。また、AIモデルが公開される前には安全性チェックなど時間がかかるため、公開されていないAIモデルは、公開されているAIモデルよりも予想外に進んでいる可能性もある。これらのことも、上記のシナリオ分析では考慮している。
6.まとめ
知的財産推進計画2025は、AI 技術の進展を踏まえた発明等の保護について、発明者の在り方等の諸論点について早期に結論を得ることを求めており、人工知能(AI)の時代の知的財産制度について、前進した内容となっている。
AI発明については、知的財産推進計画2025に基づいて、産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会での検討が行われている。産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会で早期に結論が出され、AI発明についての立法がなされる可能性があり、今後の動向が注目される。
執筆者
法律部アソシエイト 弁護士
岡本 義則 おかもと よしのり
[業務分野]
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