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人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案への知的財産の観点からの暫定コメント

人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案が閣議決定されました。

人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案
出典:内閣府ホームページ
(URL: https://www.cao.go.jp/houan/pdf/217/217anbun_2.pdf)
下記条文は、コメントする目的で、上記URLの法律案を、適宜抜粋・加工しています(閣議決定された正確な法律案は上記内閣府ホームページをご参照ください)。

人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案は、まだ閣議決定の段階であり、今後、正式な法律が制定されてから本格的な検討となると思われますが、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案は、今後のAIの社会にとって重要と思われますので、以下、主として知的財産の観点から、現時点での暫定的なコメントをします。

人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案

第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、人工知能関連技術が我が国の経済社会の発展の基盤となる技術であることに鑑み、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策について、基本理念並びに人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する基本的な計画の策定その他の施策の基本となる事項を定めるとともに、人工知能戦略本部を設置することにより、科学技術・イノベーション基本法(平成七年法律第百三十号)及びデジタル社会形成基本法(令和三年法律第三十五号)その他の関係法律による施策と相まって、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

コメント:人工知能関連技術の重要性を検討し、基本理念、基本的な計画の策定その他の施策の基本となる事項を定めています。また、人工知能戦略本部を設置しており、知的財産戦略本部のように、国家戦略が策定されることが期待されます。

(定義)
第二条 この法律において、「人工知能関連技術」とは、人工的な方法により人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術並びに入力された情報を当該技術を利用して処理し、その結果を出力する機能を実現するための情報処理システムに関する技術をいう。

コメント:「人工知能関連技術」の定義を定めています。人工知能の定義は難しく、専門家の見解も様々であり、それだけで一冊の本ができるほどです。ここでは、①人工的な方法により人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術、②入力された情報を当該技術を利用して処理し、その結果を出力する機能を実現するための情報処理システムに関する技術が挙げられています。この定義から外れてしまうが、一般的に人工知能の関連技術とされているものもありうるでしょう。定義については、今後のAIの技術の進歩による状況の変化も含めて、今後の課題として残ると思われます。

(基本理念)
第三条 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進は、科学技術・イノベーション基本法第三条に定める科学技術・イノベーション創出の振興に関する方針及びデジタル社会形成基本法第二章に定める基本理念のほか、この条に定める基本理念に基づいて行うものとする。
2 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進は、人工知能関連技術が、その適正かつ効果的な活用によって行政事務及び民間の事業活動の著しい効率化及び高度化並びに新産業の創出をもたらすものとして経済社会の発展の基盤となる技術であるとともに、安全保障の観点からも重要な技術であることに鑑み、我が国において人工知能関連技術の研究開発を行う能力を保持するとともに、人工知能関連技術に関する産業の国際競争力を向上させることを旨として、行うものとする。
3 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進は、人工知能関連技術の基礎研究から国民生活及び経済活動における活用に至るまでの各段階の関係者による取組が相互に密接な関連を有することに鑑み、これらの取組を総合的かつ計画的に推進することを旨として、行うものとする。
4 人工知能関連技術の研究開発及び活用は、不正な目的又は不適切な方法で行われた場合には、犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害その他の国民生活の平穏及び国民の権利利益が害される事態を助長するおそれがあることに鑑み、その適正な実施を図るため、人工知能関連技術の研究開発及び活用の過程の透明性の確保その他の必要な施策が講じられなければならない。
5 人工知能関連技術の研究開発及び活用は、我が国及び国際社会の平和と発展に寄与するものとなるよう、国際的協調の下に推進することを旨とし、我が国が人工知能関連技術の研究開発及び活用に関する国際協力において主導的な役割を果たすよう努めるものとする。

コメント:人工知能関連技術の重要性を述べています。日本は人工知能の技術で遅れてしまいましたが、研究開発やイノベーションを重視する観点から法律案が提出されたのは喜ばしいことでしょう。また、人工知能関連技術の適正な実施を図る必要性が述べられています。今後のAI技術にはリスクがあり、適正な実施が重要となるでしょう。また、国際協力において主導的な役割を果たすよう努めるとされ、国際的に積極的な取り組みが感じられます。日本は、著作権法30条の4や限定提供データの制度など、世界で初めて導入されたAIに関連する制度があり、外国の後追いではない対応が必要となるでしょう。
また、人工知能関連技術の活用の推進と著作権の侵害の問題の解決については、生成AIと著作権の問題についての抜本的な解決が必要でしょう。生成AIと著作権の問題については、
「AIと著作権に関する考え方について」、文化審議会著作権分科会法制度小委員会、令和6年3月15日
(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf)が出されています。
しかし、今後のAI技術を前提とする国家戦略の観点からは、生成AIと著作権の問題について根本的な解決がなされたとは到底いえないでしょう。
今後のAI社会のためには、生成AIと著作権の問題の終局的な解決が必要でしょう。著作権者側も、生成AIの開発者・利用者側も100%満足できる解決が理想といえます。そのためには、後述のデータの整備(著作権等の問題のない巨大データベースの整備)が必要となると思われます。
生成AIと著作権の問題は、現在、AIエージェントの時代が急速に到来しており、生産性の飛躍的向上のためには、知的財産の観点から、AIエージェントの円滑な活用のための施策が必要となるでしょう。
AIエージェントなどの新技術により、「人工知能関連技術が、その適正かつ効果的な活用によって行政事務及び民間の事業活動の著しい効率化及び高度化」をする時代が急速に到来しています。知的財産権の観点からの支援も重要となるでしょう。

(国の責務)
第四条 国は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策を総合的かつ計画的に策定し、及び実施する責務を有する。
2 国は、行政事務の効率化及び高度化を図るため、国の行政機関における人工知能関連技術の積極的な活用を進めるものとする。

コメント:人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策や、国の行政機関における人工知能関連技術の積極的な活用を進めることが述べられており、国の積極的な姿勢が感じられます。ここでも、「行政事務の効率化及び高度化を図るため、国の行政機関における人工知能関連技術の積極的な活用を進める」際に、生成AIと著作権等の問題が障害になりえます。生成AIと著作権の問題の抜本的な解決は急務といえるでしょう。

(地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関し、国との適切な役割分担の下、地方公共団体が実施すべき施策として、その地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。

コメント:国だけではなく、地方公共団体の責務についても述べられており、日本の積極的な姿勢が感じられます。地方公共団体においても、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進が重要となるでしょう。

(研究開発機関の責務等)
第六条 大学、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成二十年法律第六十三号)第二条第九項に規定する研究開発法人その他の人工知能関連技術の研究開発を行う機関(以下「研究開発機関」という。)は、基本理念にのっとり、人工知能関連技術の研究開発及びその成果の普及並びに専門的かつ幅広い知識を有する人材の育成に積極的に努めるとともに、第四条の規定に基づき国が実施する施策及び前条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力するよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策で大学に係るものを策定し、及び実施するに当たっては、大学における研究活動の活性化を図るよう努めるとともに、研究者の自主性の尊重その他の大学における研究の特性に配慮しなければならない。
3 研究開発機関は、人工知能関連技術の研究開発を効果的に進めるに当たっては、人文科学及び自然科学に関する多様な分野の知見を総合的に活用することが必要であることに鑑み、学際的又は総合的な研究開発に努めるものとする。

コメント:研究開発機関の責務等が定められています。学問の自由との関係で難しいところですが、研究の特性にも配慮されています。また、学際的又は総合的な研究開発が述べられています。人文科学及び自然科学が述べられていますが、社会科学も今後のAIの時代には大きく関係するでしょう。この点は、社会科学を法律に入れるべきと思われます。筆者も人工知能の技術と社会科学の境界領域の研究活動をしています。今後は、自然科学、人文科学、社会科学を問わず、ほとんどの研究分野がAIと関係するようになるでしょう。

(活用事業者の責務)
第七条 人工知能関連技術を活用した製品又はサービスの開発又は提供をしようとする者その他の人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者(以下「活用事業者」という。)は、基本理念にのっとり、自ら積極的な人工知能関連技術の活用により事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努めるとともに、第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない。

コメント:「活用事業者」の協力義務等が定められています。「活用事業者」は、「人工知能関連技術を活用した製品又はサービスの開発又は提供をしようとする者その他の人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者」と定義されています。「人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者」の外延は必ずしも明確でなく、明確化が必要と思われます。また、施策への協力義務が定められており、人工知能関連技術の活用は、今後は多くの会社等で必須となりうるので、注意が必要と思われます。

(国民の責務)
第八条 国民は、基本理念にのっとり、人工知能関連技術に対する理解と関心を深めるとともに、第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力するよう努めるものとする。

コメント:国民についても、努力義務が定められています。すべての国民が人工知能関連技術と無縁ではいられない時代になっているといえるでしょう。

(連携の強化)
第九条 国は、国、地方公共団体、研究開発機関及び活用事業者が相互に連携を図りながら協力することにより人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進が図られることに鑑み、これらの者の間の連携の強化に必要な施策を講ずるものとする。

コメント:国、地方公共団体、研究開発機関及び活用事業者の連携が定められています。人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進については、多くの機関が連携する必要があるでしょう。また、今後は、研究開発機関に属さない独立研究者の役割が大きくなっていくと思われます。ノーベル賞級の研究能力を有するAIを用いて、独立研究者が大きな成果を挙げることも考えられます。研究開発の推進については、従来の大学、研究機関などだけではなく、独立研究者の支援についても重要な課題となると思われます。

(法制上の措置等)
第十条 国は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。

コメント:国が、法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずることが定められています。国としては、人工知能関係技術の研究開発及び活用の推進に関する施策に対して、大きな予算をつけていくことが必要になるでしょう。これは、生成AIと著作権の問題の抜本的な解決のための措置を含まなければならないでしょう。

第二章 基本的施策

(研究開発の推進等)
第十一条 国は、人工知能関連技術の基礎研究から実用化のための研究開発に至るまでの一貫した研究開発の推進、研究開発機関における研究開発の成果の移転のための体制の整備、研究開発の成果に係る情報の提供その他の施策を講ずるものとする。

コメント:国の、研究開発の推進について定められています。研究開発については、現在、AIが研究論文を自動的に作成し、AIが研究を行なうことも可能となっています。この際に抜本的に解決しなければならないのが、生成AIと著作権の問題です。これが解決されれば、AIが研究論文を1日に何十本も書くことが可能となりえます。しかし、現在は生成された研究論文を著作権的に問題がないかチェックをしなければならないので、たとえば、1日1本しか生産できないでしょう。そうすると生産性が何十倍も違ってくることになりえます。このように、最新AIの状況は従来の常識を破壊するものであり、最新AIの状況に応じて柔軟に法制度を考えていくことが必要になるでしょう(岡本義則:「超知能の時代の法制度」, Kindle出版(2024))。

(施設及び設備等の整備及び共用の促進)
第十二条 国は、人工知能関連技術の研究開発及び活用に当たって必要となる大規模な情報処理、情報通信、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の保管等に係る施設及び設備並びにデータセット(特定の目的をもって収集した情報の集合物をいう。)その他の知的基盤(科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律第二十四条の四に規定する知的基盤をいう。以下この条において同じ。)を研究開発機関及び活用事業者が広く利用できるようにするため、これらの施設及び設備並びに知的基盤の整備及び共用の促進のために必要な施策を講ずるものとする。

コメント:国の計算資源やデータの整備について定められています。AIの性能は、①AIのモデル、②計算資源、③データ、④社会的要因等に影響されます。現在、大規模言語モデル等の学習において、インターネット上にあるデータでは足りなくなり、合成データなどの技術はありますが、③データがボトルネックになり、推論モデルの方向で性能の向上が行なわれています。しかし、AIアライメントの問題があり、AIを社会規範に沿って適法に動かせない問題が生じています(法律学としてのAIアライメント)。このためには、社会規範のデータを収集する制度が必要になります。データインカム(DI)の制度により、③データの問題、④社会的要因等の問題を解決することが急務となると思われます。国のデータセットの整備のための施策として、社会規範のデータを収集するデータインカム(DI)の制度の実現が重要となるでしょう(岡本義則、山川宏:「公的データインカム(DI)による社会規範のデータ収集 — 民主的なAIアライメントに向けて —」,第27回汎用人工知能研究会, No. SIG-AGI-027-04. JSAI (2024))。
この点は、民間のデータ整備とデータの契約により解決するという固定観念により、適切な施策がとられないと、③データの整備が大きく遅れてしまいます。しかし、民間の倫理・道徳データなどを前提にAIを動かすと、データを入力する一部の企業等が、AIの価値観を決めることになりえます。これは、強力な超知能AIによる独裁のおそれとして懸念されており、民主的なデータの収集の制度が必要となります。
また、民間のデータの契約により解決するという固定観念は、データのインフラの整備がいつまでもできないおそれがあるでしょう。自動車にたとえると、現在は馬車に代わって、自動車が発明されたが、道路が舗装されていない(データの整備が足りない)状態にあります。道路の整備は、国道、県道、市道、私道(有料)、私道(無料)などを総合的に行なう必要があり、すべてを私道(有料)で全国の道路を整備しようとしても、整備することは難しいでしょう。自動車である場所に行く際に、料金所を百個通る必要があり、しかも料金所では料金を支払うのではなく、データに関する難しい契約書を作って支払いをしなければならない場合、自動車があっても、その場所に行きつけなくなります。民間のデータの契約により解決しなければならないという固定観念は、「日本国内には国道、県道、市道は作ってはならない。」という、データのインフラにとって致命的な固定観念となりえます。国、地方公共団体、非営利団体、企業等のデータの収集と、それらをつなぐ、「データ道路構想」により、「データセット(特定の目的をもって収集した情報の集合物をいう。)その他の知的基盤(科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律第二十四条の四に規定する知的基盤をいう。以下この条において同じ。)を研究開発機関及び活用事業者が広く利用できるようにする」ことが必要となるでしょう。

(適正性の確保)
第十三条 国は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正な実施を図るため、国際的な規範の趣旨に即した指針の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。

コメント:国の指針の整備その他の必要な施策について定められています。人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正な実施のためには、データのインフラの整備と、生成AIと著作権の問題の抜本的な解決が必要となるでしょう。

(人材の確保等)
第十四条 国は、地方公共団体、研究開発機関及び活用事業者と緊密な連携協力を図りながら、人工知能関連技術の基礎研究から国民生活及び経済活動における活用に至るまでの各段階において必要となる専門的かつ幅広い知識を有する多様な分野の人材の確保、養成及び資質の向上に必要な施策を講ずるものとする。

コメント:国の、人材の確保、養成及び資質の向上に必要な施策について定められています。「人工知能関連技術の基礎研究から国民生活及び経済活動における活用に至るまでの各段階において必要となる専門的かつ幅広い知識を有する多様な分野の人材の確保」が重要となるでしょう。筆者も、人工知能関連技術と社会の境界領域の基礎研究に従事しながら、法律実務、特許実務を行なっています。

(教育の振興等)
第十五条 国は、国民が広く人工知能関連技術に対する理解と関心を深めるよう、人工知能関連技術に関する教育及び学習の振興、広報活動の充実その他の必要な施策を講ずるものとする。

コメント:国の、教育及び学習の振興等の施策について定められています。国民が広く人工知能関連技術に対する理解と関心を深めていくことは、今後の社会にとって重要となるでしょう。

(調査研究等)
第十六条 国は、国内外の人工知能関連技術の研究開発及び活用の動向に関する情報の収集、不正な目的又は不適切な方法による人工知能関連技術の研究開発又は活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析及びそれに基づく対策の検討その他の人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に資する調査及び研究を行い、その結果に基づいて、研究開発機関、活用事業者その他の者に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。

コメント:国の、調査及び研究と、その結果に基づく指導、助言、情報の提供その他の必要な措置について定められています。国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析及びそれに基づく対策の検討も述べられています。「国内外の人工知能関連技術の研究開発及び活用の動向に関する情報の収集、不正な目的又は不適切な方法による人工知能関連技術の研究開発又は活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析及びそれに基づく対策の検討その他の人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に資する調査及び研究を行い、その結果に基づいて、研究開発機関、活用事業者その他の者に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずる」は、範囲が広く、外延の明確化が問題となりうるでしょう。

(国際協力)
第十七条 国は、人工知能関連技術の研究開発及び活用に関する国際協力を推進するとともに、国際的な規範の策定に積極的に参画するものとする。

コメント:国の、国際協力、国際的な規範の策定への参画について定められています。日本は、著作権法30条の4や限定提供データの制度など、世界で初めての制度を導入するなど独創的な社会イノベーションをしています。日本からデータインカムなどの新しい制度を導入して世界に普及させていくことが必要となるでしょう

第三章 人工知能基本計画
第十八条 政府は、基本理念にのっとり、前章に定める基本的施策を踏まえ、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する基本的な計画(以下「人工知能基本計画」という。)を定めるものとする。
2 人工知能基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策についての基本的な方針
二 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
三 前二号に掲げるもののほか、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策を政府が総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3 内閣総理大臣は、人工知能戦略本部の作成した人工知能基本計画の案について閣議の決定を求めるものとする。
4 内閣総理大臣は、前項の閣議の決定があったときは、遅滞なく、人工知能基本計画を公表するものとする。
5 前二項の規定は、人工知能基本計画の変更について準用する。

コメント:「人工知能基本計画」について定められています。「知的財産基本計画」はすでに有名ですが、今後は「人工知能基本計画」に注意を払うことが重要となるでしょう。

第四章 人工知能戦略本部
(設置)
第十九条 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、内閣に、人工知能戦略本部(以下「本部」という。)を置く。

コメント:内閣に、「人工知能戦略本部」を置くことについて定められています。国家戦略の策定のために、内閣に本部が置かれることが重要でしょう。生成AIと著作権の問題についても、省庁に検討を委ねるのではなく、国家戦略の観点から十分な検討が必要となるでしょう。

(所掌事務)
第二十条 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 人工知能基本計画の案の作成及び実施の推進に関すること。
二 前号に掲げるもののほか、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策で重要なものの企画及び立案並びに総合調整に関すること。

コメント:「人工知能戦略本部」の事務について定められています。生成AIと著作権の問題の抜本的な解決が、当面の急務となるでしょう。本法案の検討の前提となったAI戦略会議・AI制度研究会の「中間とりまとめ」へのパブリックコメントでも、4000件以上の意見が出されており、意見の要約の内容から見て、おそらく相当数が生成AIと著作権の問題の意見と推測されます。筆者も意見を提出しましたが、圧倒的な数の意見に埋もれてしまい、意見の要約に取り上げられませんでした。
生成AIと著作権の問題は、前記文化庁の「考え方」のパブリックコメントにおいても、約25000件の意見が提出されています。25000件などという提出数は通常は見られないものでしょう。
また、知的財産推進計画についてのパブリックコメントでも、2023年の34件に対し、2024年は3000件以上と圧倒的に急増しており、生成AIと著作権の問題の意見がかなりの割合を占めると考えられます。
この問題を放置すると、関連するパブリックコメントで、生成AIと著作権の問題の意見が多数提出され、他の項目の意見が、意見の要約等で取り入れられなくなり、AI施策に関する他の項目の意見が反映されなくなる可能性があると実体験から感じます。
今後も、生成AIと著作権については、大量の意見が、関連するパブリックコメントで提出され続けることが想定され、生成AIと著作権の問題の抜本的な解決は急務といえるでしょう。

(組織)
第二十一条 本部は、人工知能戦略本部長、人工知能戦略副本部長及び人工知能戦略本部員をもって組織する。
(人工知能戦略本部長)
第二十二条 本部の長は、人工知能戦略本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。
2 本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。
(人工知能戦略副本部長)
第二十三条 本部に、人工知能戦略副本部長(次項及び次条第二項において「副本部長」という。)を置き、内閣官房長官及び人工知能戦略担当大臣(内閣総理大臣の命を受けて、人工知能関連技術の研究開発及び活用の総合的かつ計画的な推進に関し内閣総理大臣を助けることをその職務とする国務大臣をいう。)をもって充てる。
2 副本部長は、本部長の職務を助ける。
(人工知能戦略本部員)
第二十四条 本部に、人工知能戦略本部員(次項において「本部員」という。)を置く。
2 本部員は、本部長及び副本部長以外の全ての国務大臣をもって充てる。

コメント:コメントのため、複数の条文をまとめました。「人工知能戦略本部」の組織と人事などについて定められています。国務大臣が充てられており、国家戦略を検討することが期待されます。

(資料の提出その他の協力)
第二十五条 本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関、地方公共団体、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)及び地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。)の長並びに特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第一項第八号の規定の適用を受けるものをいう。)の代表者に対して、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。
2 本部は、その所掌事務を遂行するために特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。

コメント:「人工知能戦略本部」が必要な協力を求めることについて定められています。「本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、・・・資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。」としており、かなり広範に必要な協力を求めることができ、その範囲については、今後の明確化が必要となるでしょう。また、2項は、「本部は、その所掌事務を遂行するために特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる」となっています。「前項に規定する者以外の者」「必要な協力」など要件が明確でなく、今後の解釈が問題となりうると思われます。

(事務)
第二十六条 本部に関する事務は、内閣府において処理する。

コメント:「人工知能戦略本部」に関する事務について定められています。

(主任の大臣)
第二十七条 本部に係る事項については、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。

コメント:「人工知能戦略本部」に係る事項の主任の大臣について定められています。

(政令への委任)
第二十八条 この法律に定めるもののほか、本部に関し必要な事項は、政令で定める。

コメント:政令への委任について定められています。

附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第三章及び第四章並びに附則第三条及び第四条の規定は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

コメント:原則として公布の日から施行することが定められています。AIについては、進歩が急速なので、迅速な対応が必要と思われます。

(検討)
第二条 政府は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する諸施策についての国際的動向その他の社会経済情勢の変化を勘案しつつ、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

コメント:法律の施行の状況についての検討と、所要の措置が定められています。AIについては、進歩が急速なので、状況の変化に迅速に対応する必要があると思われます。この法律は、今後のAI技術の急速な進歩により、急速に状況と合わなくなっていく可能性があります。今後のAI技術の進歩の速度は、AIの専門の研究者ですら追いつけないような速度となっており、AI関係の法律についても、少なくとも3か月ごとに状況の見直しをすることが必要となるでしょう。

(内閣府設置法の一部改正)
第三条 略
(調整規定)
第四条 略

コメント:コメントをする点がないので、上記は略としています。

理由
人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与するため、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策について、基本理念並びに人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する基本的な計画の策定その他の施策の基本となる事項を定めるとともに、人工知能戦略本部を設置する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

コメント:法律案の提出の理由が述べられています。人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために、法律案が閣議決定されたことは喜ばしいことと思われます。国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与するためには、AIエージェントの利用が円滑になされるために、生成AIと著作権の問題の抜本的解決を図り、AIの安全かつ適切な動作のためのデータの収集の制度(データインカムの制度)の導入が重要となるでしょう。今後の施策が期待されます。

[まとめ]
以上のように、まだ閣議決定の段階ではありますが、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案について、主として知的財産の観点から、暫定的にコメントをしてみました。
知的財産の観点からは、生成AIと著作権の問題の抜本的な解決と、AIを適切に動作させるためのデータの収集制度の導入が重要と思われます。特に社会規範のデータの収集は、AIの違法行為を防止し、人々の人権を守るのに重要となるでしょう。なお、今回は触れていませんが、AIの急速な性能向上については、AI発明の問題など、特許制度との関係も重要な問題と思われます(筆者等の他の記事で議論しています)。

執筆者

法律部アソシエイト 弁護士

岡本 義則 おかもと よしのり

[業務分野]

不正競争防止法 著作権法 企業法務 国際法務 知財一般 特許 意匠

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