AIによる科学研究の加速と超知能時代の知的財産制度(超知能法学の必要性)
地域:日本
業務分野:知財一般
カテゴリー:法令、その他
本年8月に、AI科学者(AI Scientist)が公表されている(Chris Lu, Cong Lu, Robert Tjarko Lange, Jakob Foerster, Jeff Clune, David Ha: The AI Scientist: Towards Fully Automated Open-Ended Scientific Discovery, arXiv:2408.06292 [cs.AI](2024))。
AI科学者は、AIが科学研究を自動的に行うものである。AIが研究を行うことができると、AIがAI研究を行うことができるようになり、人間の知能をはるかに上回る超知能の時代の到来が予測されている。
一昔前までは、AIは創造的なタスクはできないという考え方が主流であった。しかし、AIの技術の進歩は速く、AIによる発明も可能な時代となっている。
特許庁は、AI発明について検討し、本年4月において、「AI関連技術は今後更に急速に発展する可能性があるため、引き続き技術の進展を注視しつつ、必要に応じて適切な発明の保護の在り方を検討することが必要と考えられる。」としている。
わずか4か月後の本年8月には、AI科学者が公表されており、急速な発展が現実のものとなっている。AI発明についての特許制度等の検討については、現在から検討を進めていく必要があると思われる。
超知能の時代において、知的財産制度で改善をしなければならないものは多い。たとえば、現時点で急がなければならないものとして、生成AIと著作権の問題の抜本的な解決がある。日本は著作権法第30条の4を導入した。これは、日本が世界で初めて導入した独創的な制度であり、日本の社会制度の創造力(社会イノベーション能力)は高い。しかし、著作権法第30条の4は、生成AIと著作権の問題を抜本的に解決することはできなかった。生成AIと著作権の問題の抜本的な解決のための制度導入が必要である。
生成AIを企業において導入するニーズは大きい。今後、急速に生成AIの能力が向上すると、生成AIを導入するか否かで生産性の向上の違いが非常に大きくなりうる。その際に、生成AIと著作権の問題を抜本的に解決できているかどうかは、多くの企業の生産性に大きくかかわってくる。生成AIと著作権の問題を抜本的に解決することの重要性は極めて大きいと思われる。
さらに、データ保護法制も極めて重要になる。現在は、不正競争防止法において限定提供データの制度がある。これは、日本が世界で初めて導入した独創的な制度であり、日本の社会制度の創造力(社会イノベーション能力)は高い。しかし、超知能の時代には、一般に公開されて利用可能なAI学習用データも大量に必要になる。AIの性能向上はもちろん、AIの違法行為を防止するために、人間の社会規範についてのデータの収集も必要となる。
これらの問題を解決するためには、データの知的財産制度として、データインカムの制度の導入の検討が必要となると思われる。データの知的財産制度といっても、独占権を基調とするものではなく、AI学習用データを社会から収集し、社会においてデータを有効活用するという点に重点がある。ただし、各人がデータについての権利を持つことにより、国家がデータを独占して濫用することを防止するという視点も必要となりうる。
このように、超知能の時代においては、知的財産制度について新しい考え方が必要になると思われる。国際的なハーモナイゼーションは必要であるが、ハーモナイゼーションの点から特に問題がないものについては、独創的な制度であっても、世界で初めて導入をしていくことが必要となる(社会イノベーション)。
超知能の時代は急速に訪れようとしており、数年のうちに超知能の時代の到来が予測されている。人工知能学会の第27回汎用人工知能研究会でも、この点の討論が行われている。
急速な超知能の時代の到来に備え、今すぐに知的財産制度の整備についての議論を始めることが重要と思われる。
執筆者
法律部アソシエイト 弁護士
岡本 義則 おかもと よしのり
[業務分野]
不正競争防止法 著作権法 企業法務 国際法務 知財一般 特許 意匠
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