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生成AIの法規制などを検討する「AI制度研究会」の初会合

8月2日に、「AI制度研究会」の初会合が、AI戦略会議と合同会議として首相官邸で開かれている(首相官邸ホームーページ)。

AI制度の課題としては、(1)AIの安全性確保と競争力強化の両立、(2)技術の変化に対応できる柔軟な制度、(3)国際的な指針に準拠、(4)政府によるAIの適正調達と利用の4原則が検討されている。それぞれについてコメントする。

(1)AIの安全性確保と競争力強化の両立
法律家はAIの安全性確保というと、すぐにAIの規制について考えてしまうのではないだろうか。しかし、規制をしても、規制の名宛人は人間であり、人間がAIをコントロールできない場合には安全性は高まらない。(A)人間が悪いことをするリスクと、(B)人間には悪意はないがAIをコントロールできないことによるリスク、の双方に対応する必要がある。規制は(B)に対応できないため、(B)に対応する制度を作ることが必要になる。

(B)のリスクの例が、生成AIと著作権の問題である。生成AIと著作権の問題では、「著作権侵害をしてはいけない」という規制(著作権法)はすでに存在する。それにもかかわらず、人間が生成AIをコントロールして、著作権を侵害しないようにすることができないために、生成AIと著作権の問題が社会問題になっている。

生成AIと著作権の問題の抜本的な解決には、日本の著作権法上の「類似性」の判断のデータをAI学習用データとして集積し、AI自体が日本の著作権法上の「類似性」の判断をして、著作権侵害をしないようにできるようにする必要がある(コンプライアンスアーキテクチャ)。あるいは、著作権的にクリーンなデータを社会において大量に収集して、著作権の問題のある出力を一切しない生成AIを作る必要がある(スーパークリーンアーキテクチャ)。

そのためには、AI学習用データの集積が必要であり、データインカム(DI)の制度の導入が必要となる。

このようにAIの安全性確保のためには、AI学習用データが必要であるという視点が非常に重要となる

AI学習用データの収集は、競争力強化にも非常に重要である。AIの性能は、①モデル、②計算能力、③データ、④社会的要因(法制度を含む)等に影響される。日本は、AIへの対応が遅れており、①~④のすべての対策が必要であるが、法制度の観点からは、特に③④の改善を図ることが重要になる。データインカム(DI)の制度は、③の問題はもちろん、社会規範のデータの収集等にも利用でき、④の問題にも役立つ。

このように、AIの安全性確保と競争力強化の両立の観点からは、AI学習用データの社会における集積が重要であり、データインカム(DI)の制度の導入が重要となる。

(2)技術の変化に対応できる柔軟な制度
ハードローによる規制については、EU AI法のように詳細な規制をハードローで作るのは、柔軟性を欠くことになる危険性があると思われる。AIの技術の進歩は極めて速く、将来のAI技術の予測は難しい。AIの専門家を集めてもAI技術の予測は難しいことを、立法担当者が認識することが重要なのではないだろうか。

技術の変化に対応できる柔軟な制度という観点からは、リスクの高い行為について、概括的なハードローの規制を作り、ソフトローを中心としていくなど、ハードローに過度に頼らずに、ソフトローを中心としていくことが一つの考え方となりうると思われる。

(3)国際的な指針に準拠
国際的な指針に準拠し、人権の尊重など、国際的に重要な価値を実現できるようにすることが重要となる。そのためには、AIが人間の社会規範を理解して動作するようにすることが重要となると思われる。

AIが人間の社会規範を理解して動作するようにするためには、AI学習用データが必要である。たとえば、著作権法を守るAIを作るためには、日本の著作権法上の「類似性」の判断のデータをAI学習用データとして集積し、AI自体が著作権法を守れるようにすることが必要となる(コンプライアンスアーキテクチャ)。

このように、AIが人間の社会規範を理解して動作するためには、社会においてAI学習用データの集積をする必要があり、データインカムの制度(DI)が重要となる。

また、社会的、安全上のリスクを軽減するためのAIの研究が重要となる。欧米ではAIアライメントなどの研究が盛んであるが、日本では、社会的な重要性に比して、十分な研究資源が割り当てられているとはいえない。AIの社会的、安全上のリスクを軽減し、高度なAIの社会の実現に協力する活動を支援する制度の実現が重要となると思われる。

(4)政府によるAIの適正調達と利用
政府によるAIの適正調達と利用については、限られた企業が巨大なデータを有する場合、データは営業秘密として秘匿される。営業秘密は、不正競争防止法により保護されている。

そこで、国民が広くデータを保有し、社会においてデータを集積して、政府が十分な能力を持ったAIを適正に利用することができる制度が必要となる。

この点からも、データインカム(DI)の制度により、日本全体でデータを集積することにより、法律的にクリーンなデータを社会において収集し、著作権法等の社会規範を守ることのできるAIを適正に利用できるようにすることが重要となると思われる。

(5)まとめ
知的財産の観点からは、データインカム(DI)の制度の導入をして、生成AIと著作権の問題を根本から解決することが1つの重要な課題となる。

現在、企業等における生成AIの活用が重要となっている。しかし、著作権等の問題があり、活用の障害となっている。生成AIと著作権の問題を抜本的に解決することは、実務的にも非常に重要な課題と思われる。

執筆者

法律部アソシエイト 弁護士

岡本 義則 おかもと よしのり

[業務分野]

不正競争防止法 著作権法 企業法務 国際法務 知財一般 特許 意匠

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