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特許庁が公表した「AIを利活用した創作の特許法上の保護の在り方に関する調査研究」について

特許庁から、AIを利活用した創作の特許法上の保護の在り方に関する調査研究が公表されている。

出典:特許庁ウェブサイト
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/ai/ai_protection_chousa.html

特許庁は、本調査研究の結果を踏まえ、AI技術の急速な発展を注視しつつ、AIを利活用した創作の特許法上の保護の在り方に関して検討を進めるとしており、AIの時代において、重要な発表がなされている。

特許庁は、近年のAI技術の急速な進歩に対して、迅速でタイムリーな検討をしており、非常に優れた取り組みがなされていると思われる。

特許庁は、今回の検討の結論として、「本調査研究では、現時点において、発明の創作過程におけるAIの利活用の影響によって特許法上の保護の在り方を直ちに変更すべき特段の事情は発見されなかった。」としている。

この点は、現在のAIの能力を前提に検討が行われており、また、特許の実務においては、世界的なハーモナイゼーションが必要であり、慎重な検討を行っていると思われる。

一方で、特許庁は、「AI関連技術は今後更に急速に発展する可能性があるため、引き続き技術の進展を注視しつつ、必要に応じて適切な発明の保護の在り方を検討することが必要と考えられる。」としている。

この点は、特許庁は、AI技術の今後の急速な発展を十分に考慮しており、妥当と思われる。

AI技術において、大規模言語モデル(LLM)は、既にマルチモーダル化して、大規模マルチモーダルモデル(LMM)になっており、汎用人工知能(AGI)に近づいてきている。今後のAI技術は、人類の想像を超える速度で進歩する可能性がある。想像を絶する巨額の投資もアメリカで行なわれており、日本も国家予算の多くの割合をAI関連予算に割いても良い状況になっているが、そのことはほとんどの人に知られていない。

筆者は、1990年台初頭に、マルチエージェントモデルを用いた一種のマルチモーダル推論(イメージ推論)により人間並みの人工知能を実現することを目指して研究をした(岡本義則「定量的物理モデルを用いた幾何学的推論」電子情報通信学会論文誌 Vol.J75-D-Ⅱ,No.11, pp.1866-1873 (1992))。それゆえ、マルチエージェントモデルを用いた大規模マルチモーダルモデルの可能性に期待している。

特許庁は、調査結果は、現在のAIの技術水準では、発明の創作に人間の関与が一定程度必要であり、AIが自律的に発明を創作する事例は確認されなかったとしている。AIの自律化、エージェント化も進んでおり、この点は、今後のAI技術の発展について、継続的な情報のアップデートが必要と思われる。

特許庁の判断のとおり、発明性については、現時点では、現在の基準を変えないという判断は妥当と思われる。現時点では、公開されていないAIは相当に進んでいることが予想されているが、一般的に入手可能なAIのレベルでは、発明の創作に人間の関与が一定程度必要であり、現在の基準で対応が可能と思われる。

また、特許庁の判断のとおり、現時点では、進歩性判断や、記載要件の判断についても、現在の基準を変えないのが妥当と思われる。進歩性判断や記載要件の判断は、特許実務のハーモナイゼーションの問題があるので、諸外国の動きを見ていく必要があり、現時点での特許庁の判断は妥当と思われる。

もっとも、特許制度の中でハーモナイゼーションが必要のない部分については、AIの時代に適したように、迅速に改正をする必要があると思われる。この視点は、今回の検討の範囲外であり、今後の検討が必要と思われる。

その例として、特許制度の目的が挙げられる。アメリカでは、特許制度は、憲法にも規定があり、科学の進歩を目的とする。科学の進歩は、かなり広い概念であり、色々なものを含むことができる。

しかし、日本の特許法第1条の目的は、高度経済成長の特許法(昭和34年4月13日法律第 121号)(昭和34年法)の「産業の発達に寄与することを目的とする」から長い間改正されていない。「産業の発達」は、高度経済成長期の日本の状態を反映した表現となっている。

昭和 34 年法の制定当時と、人工知能(AI)の時代である現代では、様々な状況が変化していると考えられる。実際に、弁理士の間でも、現代では、産業は十分発達しており、これ以上の産業の発達はそこまで重要ではないので、特許制度自体が、あまり意味がないのではないかという意見も見られる。AIの時代における特許制度の目的の再考が必要と思われる。

技術開発は、必ずしも産業の発達とは結びつかない点においても、気候変動の問題の解決など環境の保全(人工知能(AI)の時代の特許制度の目的と環境保全(地球温暖化、気候変動の問題と特許法))、科学技術の進歩によるすべての人の健康で文化的な生活の実現、産業にならない希少疾患の治療など、多くの福利を人類にもたらす。さらに、AIが研究開発をすることによる想像を超える発展が考えられる。

このように、昭和 34 年法の制定当時と現在では、社会の状況がまったく異なることから、人工知能(AI)の時代における特許制度の多様な機能を検討して、特許法の目的についての改正を検討することが必要と思われる。

そして、人工知能(AI)の時代の進展により、特許法の目的についても、公開の代償論やインセンティブ論などの単純な図式では、複雑化した社会に整合しない側面が増加しており、人工知能(AI)を用いた技術開発への支援機能の発揮など、様々な目的を持つように、再考が必要と思われる(岡本義則「人工知能(AI)の時代における特許制度の目的」パテント Vol.76, No.6, pp.103-111 (2023))。

特に、将来的には、(A)人間がAIを使わないでする発明よりも、(B)人間がAIを使ってする発明や、(C)自律的AIの発明の方が、産業の発達への寄与、技術開発により人類にもたらされる他の福利が、大きくなることが予想される。

たとえば、(A)がわずか10%、(B)が40%、(C)が50%となれば、現行の特許制度だけでは、十分な役割を果たせなくなる。さらに、(C)が90%以上となれば、特許法の改正ないし特別法の制定により、正面から自律的AIの発明の問題に取り組まざるを得なくなるであろう。

このように、(B)や(C)が大きくなった際の特許制度については、日本や世界の未来と人類の福利を実現するために、検討が必要と思われる(岡本義則「人工知能支援発明と人工知能(AI)の時代における特許制度」特許ニュース No.16007, pp.1-8(2023))。

そのときは、遠い将来ではなく、急速なAIの進歩により、想定より早く訪れる可能性がある。今回、多くの企業が、現在の特許実務に疑問を感じて問題提起をしているのは当然のことと思われる。

そして、特許庁が迅速な検討を行って、AI関連技術の今後の急速な発展の可能性に言及し、引き続き技術の進展を注視しつつ、必要に応じて適切な発明の保護の在り方を検討することが必要としているのは、非常に意味のあることと思われる。

執筆者

法律部アソシエイト 弁護士

岡本 義則 おかもと よしのり

[業務分野]

企業法務 国際法務 知財一般 特許 意匠

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