商標判例読解40 「皇朝」事件判決(メニューでの商標の使用は飲食物の提供についての商標の使用か)
業務分野:商標
カテゴリー:判例
著者など | 神蔵 初夏子 ユアサハラ法律特許事務所/商標判例研究会 |
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業務分野 | 商標 |
出版日 | 平成28年7月14日 |
掲載誌・出版物 | 特許ニュースNo.14244 |
出版社 | 一般財団法人 経済産業調査会 |
概要
当事務所・商標判例研究会による連載「商標判例読解」の第40回
判決日:平成28年2月26日
事件番号:平成26年(ワ)第11616号
事件名: 商標権侵害行為差止等請求事件
係属部:東京地裁民事第40部(東海林保、今井弘晃、廣瀬 孝)
出典:裁判所ウェブサイト
「皇朝」事件判決
レストランのメニューリストに記載された個々のメニュー「皇朝小龍包」の記載は指定役務「飲食物の提供」に関する商標「皇朝」の使用と言えるのか、が問題となった判決である。結論として、メニューに記載された「皇朝小龍包」は飲食物の提供についての商標「皇朝」の使用であると認められつつ、損害は発生していないとして損害賠償請求は認められなかった。また、既に使用を止めていることから差止請求も認められなかった。
【原告の商標権】
原告商標1
登録第5078407号
商標 皇朝(標準文字)
登録出願日 平成18年5月31日
設定登録日 平成19年9月21日
商品及び役務の区分等
指定役務 第43類 「飲食物の提供」他
原告商標2
登録第5079752号
登録出願日 平成18年5月31日
設定登録日 平成19年9月28日
商品及び役務の区分 第43類等
指定商品 第43類「飲食物の提供」他
裁判所の判断
1.被告が使用する「皇朝」の文字から成る標章は,原告各商標と類似するか、について
「皇朝小籠包」とのメニュー表示について
被告は,被告店舗において「皇朝小籠包」とのメニューを表示していたことがあり,このうち「小籠包」の部分は商品名を表すものとして出所表示機能はなく,識別力を有するのは「皇朝」の部分にあるものと認められるから,原告商標1と類似するというべきである。
一方,原告商標2については,外観において明確に区別し得るから,類似しないというべきである。
そして,この「皇朝小籠包」については,被告店舗で供されるメニューに表示されており,このメニュー表示は,中華料理の提供を行う被告店舗において役務の提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為であり,法2条3項3号にいう商標の使用に該当するものと認められる。
そうすると,被告店舗における「皇朝小籠包」とのメニュー表示は,原告商標権1の侵害に当たる。
ただし,被告は,「皇朝小籠包」のメニュー表示の使用を止めており,これを再開するおそれも認められないから,使用の差止めを求める請求の趣旨の請求については理由がないというべきである。
2.損害の発生の有無及びその額について
「皇朝」が「我が国の朝廷」との意味を有する普通名詞であることからすると,これを商品名である「小籠包」に付したとしても,もとよりその「皇朝」の部分の自他識別力は極めて弱いものというべきである。
被告店舗において用いられた「皇朝小籠包」とのメニュー表示のうち,「皇朝」の部分そのものには顧客吸引力が認められず,「皇朝小籠包」との記載が被告店舗内で使用されている限り,当該標章の使用が被告店舗における売上げに全く寄与していないことは明らかであり,その使用によって原告に損害が発生しているものとは認められない。
仮に被告店舗の客の大半が「皇朝小籠包」が話題であるとの情報に接して被告店舗を訪れることを決めるとしても,顧客はあくまで被告店舗の人気メニューである小籠包を意味する表記として「皇朝小籠包」をとらえているにすぎないから,それは原告各商標が被告の売上げに貢献していることを意味しないというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
解説・検討
被告が「皇朝小龍包」をメニューに付する行為を判決では法2条3項3号「役務の提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」に該当すると判断している。
本件ではメニューの写真などを確認することはできていないが、判決文からも一メニューの名称として記載されていることが分かるため、かかる場合には原告商標1を飲食物の提供の出所表示として「役務の提供を受ける者の利用に供する物に標章を付与する行為」をしているとは言えないように思われる。
また、本判決の「(損害の発生の有無及びその額)について」、で述べられている見解と、「被告が使用する「皇朝」の文字から成る標章は,原告各商標と類似するか」、で述べられている見解とは矛盾しているようにみえる。
「皇朝小龍包」のメニュー表示があくまで「小龍包」を意味するのであればそもそも侵害を構成していない(飲食物の提供についての商標の使用に該当しない)との結論とするのが妥当に思われる。要するに、「皇朝小龍包」のメニュー表示は飲食店の出所を表示するものではないから、原告商標権を侵害しない、とすればすむのではないだろうか。形式的に外観上商標法第2条3項3号に該当する標章の使用であっても商標的使用態様には該当しない結果、商標権侵害には該当しない事案のように思われた。
また、被告標章1「」 被告標章2「
」における崩し字について、「崩し字の専門辞典並びに書道及び漢字の楷書等の専門辞典には,『楽』の字の崩し字であるとして掲載されている。また,被告標章1の右下の落款様の部分は『楽天』と読むことができるから、被告標章1からは『ラクテンコーチョー』の称呼が生じ得るものと解される」、と判断されていたことから、出願依頼等された商標に崩し字や見慣れない文字が含まれていた場合には、専門辞典等に当たって確認しておく必要があると思われます。
なお、記事の全文は「特許ニュース」No.14244(平成28年7月14日号)をご覧ください。
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