知的財産推進計画2026 – AI技術の進展と知的財産
地域:日本
業務分野:知財一般
カテゴリー:法令、その他
1. 知的財産推進計画2026
知的財産推進計画2026が発表された。
知的財産戦略本部「知的財産推進計画2026 ~成長戦略を支える知財戦略の推進~」(2026年6月12日)
出典:首相官邸ホームページ
URL:https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/titeki2/260612/keikaku_all.pdf
知的財産推進計画2026は、日本の知的財産政策の方向性を示す重要な文書として注目される。その内容は多岐にわたっているが、ここでは、AI技術の進展と知的財産に関するいくつかの項目について考察する。
2. 「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」(仮称)の制定への言及
上記の知的財産推進計画2026の6頁9~16行目には、以下の記載がある。
このため、AIの利活用に伴うイノベーションを促進しつつ、そのリスクにも対応する必要があるという「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下「AI法」という。)の理念を踏まえ、生成AI技術の進歩の促進と知的財産権の適切な保護の両立に向け、権利者や利用者にとって安全・安心な利用環境を確保することを目的として、「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」(仮称)を制定し、国内外への周知等を図るとともに、クリエイター等への対価還元を促す枠組みの構築を促進する必要がある。
「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」(仮称)(プリンシプル・コード案)については、AI時代の知的財産権検討会(第12回)の資料では、非営利目的や、中小企業や個人も適用対象となる文言になっており、また、記載事項も煩雑である。知的財産推進計画2026の21頁16行目~21行目には、「(短期・中期)(内閣府(知財)、文化庁、経済産業省)」の指示がなされたため、制定を前提に準備を進める必要があるが、具体的な内容については今後の修正が必要である。
また、権利者や利用者にとって安全・安心な利用環境を確保することを目的とするために、クリーンなデータセットの大規模な整備が必要であろう。知的財産推進計画2026の上記記載が、「クリエイター等への対価還元を促す枠組みの構築」の促進に言及しているのは大きな前進である。データインカムの制度の導入が好ましい。
その前段階として、国民が自己の著作物やデータを登録できる巨大データベースの整備が候補となる。著作物についてはオプトイン・オプトアウトのいずれも選択できるようにする。AI学習用データとして審査を通過した場合には、一種の知的財産権を付与し、定期的に収入が与えられる制度を作れれば、データインカムの制度となる。
審査にコストがかかることを懸念する人がいるかもしれない。しかし、インフラ整備として、道路舗装のコストが必要不可欠であることは容易に理解できる。クリーンなデータセットはAI社会における道路の整備や鉄道網の整備に相当する(データ道路構想、データ新幹線構想)。クリーンな巨大データセットは、その後のAI開発に末永く利用できる。
このような基盤が整備されれば、いわば安全な道路が整備された状態となり、生成AIと著作権の問題の終局的な解決にも資することになり、利用者が安心して自律AIを利用できるようになる。道路の整備ができず、物流も産業も発展せず、毎日水汲みのために子供たちが学校にも行けない地域を想像すれば、インフラの重要性が理解できる。
道路の舗装費用は直ちには何の利益ももたらさない。しかし、道路整備後の長い期間、物流・産業の基盤となる。日本も江戸時代からある日本中の道路を舗装し、新幹線を発明し、高速鉄道のネットワークを構築した。日本はデータに関しても、世界に先駆けた取組みを行うことが可能である。
データの整備は、道路や鉄道の整備のような環境負荷も少なく、AIの時代に必要なインフラ整備なのである。
3.知的財産推進計画2026とAI発明及び特許・意匠制度への影響
知的財産推進計画2026の20頁1~5行目は、「また、生成AI技術の発達により、短時間かつ低コストで多数の技術情報やデザイン案を生成・公開することが可能となり、知的創造活動が変化している。このような背景を踏まえ、産業構造審議会知的財産分科会の特許制度小委員会および意匠制度小委員会において、AI技術の発達を踏まえた産業財産権上の適切な対応について検討が進められている。」と述べている。
AI発明の問題については、産業構造審議会知的財産分科会で検討が進められている。知的財産推進計画2026でも言及されており、今後の検討が必要となる。意匠については、特許と関連する問題として、生成AI技術により、短時間かつ低コストで多数のデザイン案を生成・公開できる問題があり(生成AIによる先回り大量生成問題)、今後の検討が必要となる。
4.日本の生成AI利活用の促進
知的財産推進計画2026の20頁17~19行目は、「「知的財産推進計画2025」において「日本企業のAIの利活用率を概ね100%まで高める」とのKPIが設定されていたところ、日本企業のAIの利活用率は2025年度調査では55.2%となっている。」と述べている。
知的財産推進計画2026は、AIの利活用の促進のKPIを評価している。前述のプリンシプル・コード案についても、生成AIの利活用を妨げることがない内容とする必要がある。
クリーンなデータセットの整備により、出力が安全であることが保証された生成AIを作り、法律を制定して免責・補償の制度を設けることにより、KPIを100%に近づけることができるであろう。
5.AI時代のイノベーション人材と教育
知的財産推進計画2026の23頁26行目~29行目は「<イノベーションを支える人材の多様性>イノベーションの創出は、単一の価値観や経験に基づく発想のみでは限界があり、異なる知識、経験、価値観を有する多様な人材が相互に刺激し合うことによって初めて持続的に生み出されるものである。」と記載している。
これは、イノベーションを支える人材の多様性についての記載であり、非常に重要な指摘となっている。今までは、イノベーション人材は、狭い範囲で捉えられていたが、これからは、AIの活用を含めて、イノベーションを支える人材の多様性が重要となる。
日本は江戸時代から寺子屋などで教育に力を入れ、人材が豊富なことが強みであった。教育の重要性は理解されている。
しかし、これからは人間の教育だけでなく、AIの教育が重要となる。たとえば、知的財産推進計画2026の88頁の図表36では、AI for Scienceの推進に向けた基本的な戦略方針が検討されている。AIは科学研究やイノベーションにも大きな役割を果たすことが期待される。
日本は教育に力を入れ、教育立国で発展してきた。しかし、人間の教育だけでは足りなくなっている。すでにAIの能力は人間を超える側面が増加しているからである。AIの教育がどこまでできるかが、イノベーションにとって重要となる。「AI教育立国」が必要となる。
「AI教育立国」については、AIの教育のためのデータが重要となる。ここでも、データインカムの制度が、AIの教育データを民主的に収集するために必要となる。今後のイノベーションを支える人材の検討においては、AIの教育と活用にも力を入れていく必要がある。
6.まとめ
知的財産推進計画2026の内容は多岐にわたっているが、ここでは、AI技術の進展と知的財産権に関するいくつかの項目について考察した。知的財産推進計画2026は、日本の国家戦略を検討するものとして、知的財産実務にも大きな示唆を与えるものである。
知的財産推進計画2026は、多様な観点から十分に検討された内容となっている。しかしながら、AIの進展速度は極めて速く、従来の想定を大きく上回っている。とりわけ、AI学習用データの大規模収集・活用の制度設計は、今後のAI時代において中核的課題となる。日本は、①モデル、②計算資源、③データの各分野で遅れが指摘されており、その克服が急務である。
なかでも、データ分野については、知的財産制度の工夫により競争優位を確立できる可能性がある。各省庁、地方公共団体、民間企業が連携し、データのインフラ整備を一層推進することが求められる。
AI時代の知的財産政策においては、データインフラ整備を支える制度設計が不可欠であり、その成否が将来を左右すると考えられる。
執筆者
法律部アソシエイト 弁護士
岡本 義則 おかもと よしのり
[業務分野]
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