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AI開発者の監査・認証制度は必要か?:過度な規制と人権保障の観点からの考察

本年7月4日(火)において、AI開発者の監査・認証制度を政府が設けるべきかが話題となっている。

AI開発者の監査・認証制度は、過度な規制となると、AI開発への妨げとなり、多くの機会損失を生んでしまうであろう。もちろん、AI開発の安全性や人権の保障のために、検討が必要な事項は多い。AI開発の安全性の問題は、人工知能の研究者のコミュニティにおいても、AIアラインメントの問題として議論されているが、現時点で有効な解決策が見つかっていないという現状もある。AIの研究者も、AIの安全性の問題は気にかかるところであろう。

しかし、AI開発により、医療・介護、災害・事故に対する安全対策、気候変動への対応力などが進歩し、実質的な人権の保障が充実する側面も忘れてはならないであろう。現時点でAI開発を過度に規制することは、人権保障の観点からも、失うものが多いと思われる。

現時点でのAI開発の促進のためには、AI開発の新規参入を容易にすることが重要と思われる。AI開発者の監査・認証制度を設けると、AI開発の新規参入への障害となる点は、検討が必要であろう。AI開発者の監査・認証制度には、金銭的・時間的・手続的・心理的・人的なコスト等が必要となり、そのコストは新規参入者や開発者に重くのしかかってくる。

AI開発の促進のために、現在必要なことは、AI開発者の監査・認証制度ではなく、AI開発のための参入障壁を引き下げることと思われる。AIの規制について議論するときには、将来的に新規参入をするかもしれない「現在は存在しない企業」は意見を述べることができない。これは、「現在は存在しない企業等の権利を守れるか」という難問となりうる。新規参入者の利益は、現在は存在しないがゆえに、取り入れられにくい意見であるため、新規参入者の視点から考えていく必要があると思われる。

新規参入の容易性の確保で重要なものは、AI学習用データの整備であろう。現在、ベンチャー企業、中小企業がAIに新規参入をしようとしても、AI学習用のデータを、何年もデータを蓄積してきたプラットフォーマー並みに集めることは難しい。著作権法30条の4は、データ収集を容易にする点では先見の明のある規定であるが、解釈が明確でない部分があり、利用規約との関係も不明確である。実際にデータを利用しようとする際に、利用規約を検討するだけでも相当の時間がかかる。現状においては、著作権法30条の4は、新規参入をするベンチャー企業や中小企業が、何十年もデータを蓄積してきたプラットフォーマー並みのデータを集められるようになる決定打にはなりえない。圧倒的なデータの格差が、新規参入の障壁となるのである。

著作権の問題のないAI学習用の大規模なデータを、誰もが使えるようにして、新規参入を容易にすることが重要と思われる。そのためには、著作権者やデータの作成者が、AI学習用データとして許可をした場合に、定期的な収入など、データインカム(DI)を与え、著作権の問題のないAI学習用データの大規模なデータベースを作ることが重要となろう。これは、AI学習用データによる収入(データインカム(Data Income(DI))の実現として、重要となると思われる。

生成AIについては、著作権者とAI利用者の利益を調整するというのが、伝統的な法曹界の考え方となる。双方が不満足であるが、妥協点を見つけるという考え方は、法曹界だけではなく、政治の世界などでも一般的であろう。しかし、生成AIと著作権の問題に関しては、両者の利益の調整は、どちらにとっても不十分な未来を生むことになりうる。調整によりAIの利用が進まなければ、著作権者はAIの利用から利益を得られない。また、調整により著作権の制限のある状態になってしまえば、AIの活用は遅れてしまい、人々の人権保障の充実を図ることもできない。

生成AIと著作権の問題は、伝統的な利益の調整ではなく、著作権者が100%満足し、AI利用者が著作権のことを気にせずにAIを活用できるなど、両者が100%満足する解決が重要となると思われる。

そのためには、著作権者が、AI学習用データとして許可をしたデータに、十分な金額のデータインカム(DI)を与えることが必要となる。予算としては、著作権者の完全な満足を得るために、GDPの1%程度を用意する必要があろう。マイナポイントを配れる国なら可能である。生成AIは、現在は画像生成などのイメージで捉えている人が多いが、これは表面的な見方にすぎない。AIが進歩をしていくと、人間の労働を代替できるものになりうる。将来的には、GDPの1%程度はAIが生産できるようになり、その割合は年とともに増加するであろう。人間の労働はゼロにはならないであろうが、仮に人間の労働が30%残ったと仮定しても、人工知能(AI)がGDPの70%を生み出すことになりうる。この場合、著作権の問題が解決されていなければ、GDPの大半を失うことになりうる。

著作権の問題のないデータのみを学習に使った生成AIの生成物は、著作権侵害にならないことを制度的に保障し、万が一著作権上の問題のあるデータが混入していたなどの場合も、保険のような仕組みで解決をするようにすれば、人工知能(AI)が人間の労働を代替する作業をするたびに、著作権侵害のおそれがあるという問題を防ぐことができるであろう。

人工知能(AI)の進展による、いわゆる技術的失業の問題に対して、ベーシックインカム(BI)の実現が議論されているが、財源がなければ実現できない。財源の問題を解決するために、人工知能(AI)による生産がGDPに占める割合に応じて、少額からベーシックインカム(BI)を始めることが考えられる。憲法上の権利(憲法第25条)があるので、生活保護は並立することになるであろう。筆者は、人工知能(AI)の次世代社会のための法的インフラとして、人工知能の発展に協力する行為について与えられる協力インカム(CI)と、人工知能の学習用データによる収入であるデータインカム(DI)の概念を、ベーシックインカム(BI)を補完する制度として、提案している。ベーシックインカム(BI)だけでは財源の問題があるので、協力インカム(CI)、データインカム(DI)を総合的に考慮することが有用と思われる。

執筆者

法律部アソシエイト 弁護士

岡本 義則 おかもと よしのり

[業務分野]

企業法務 国際法務 知財一般 特許 意匠

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