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EP:欧州単一特許/統一特許裁判所概要

外国特許情報委員会

2022/10/7, 2022/12/9 更新

1.はじめに

 統一特許裁判所協定UPCA: Unified Patent Court Agreement)が2023年6月1日に発効となる見込みである。1つの特許で欧州の多数の国(後述のUPCA批准国)において効力を有する欧州単一特許UP: Unitary Patent)が導入され、欧州における特許取得に選択肢が増える。統一特許裁判所UPC:Unified Patent Court)は、UPCA批准国を管轄し、特許侵害訴訟、特許無効訴訟を主に扱う。
 UPCA批准国において有効化した従来型欧州特許従来型EP)についての裁判は、UPCA発効から7~14年の移行期間終了後にUPCに管轄されるようになる。

 2. 欧州単一特許UP

 従来型EPを取得するためには、欧州特許庁EPOでの審査終了の後、権利化を希望するEPC加盟国毎に有効化の手続きが必要である。UPCA発効後は、EPC加盟国の内、UPCA批准国については、欧州単一特許UPを申請すること(後述)により、UPCA批准国(注1)全域で効力を持つ特許を取得できる。
 単一特許UPは、登録時のUPCA批准国において、効力を有する。裁判となった場合、欧州単一特許UPは、UPCの専属管轄となる。

表1:権利化対象国と特許の種類

権利化対象国 従来型EP UP
非EU/UPCA非参加国/UPCA未批准国 ×
UPCA批准国 各国毎に従来型EPまたは1つのUP

<特徴>
 (a)1つの特許で多くの国をカバーでき、各国毎の有効化の必要が無く、更新手数料もEPOのみに支払えば良い。したがって、概ね4か国以上で権利化する場合、UPの方が経済的であり、更新手数料の管理も簡単になる。
 (b)単一特許UPは、UPCの専属管轄となる。特許権者がUPCに特許侵害を提訴し、侵害判決が出ると、1つの判決によって、UPCA批准国のすべてにおいて侵害が認められる。一方、ライバル企業がUPCに特許無効を提訴し、無効判決が出ると、1つの判決によって、UPCA批准国のすべてにおいて特許が無効になるリスクがある。このような特許無効訴訟は、セントラルアタックと呼ばれている。

 (注1)EU加盟国ではない英国やスイス、統一特許裁判所協定UPCAに参加していないスペイン、 ポーランド、 クロアチアに、UPの効力は及ばない。UPCA参加国の中でUPCA発効時にUPCA批准を予定しているのは、オーストリア、 ベルギー、ブルガリア、 デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロベニア、スウェーデンの17か国である。その他のUPCA参加国も順次批准が期待されている。

3.統一特許裁判所UPC

 統一特許裁判所UPCの趣旨は、各国に散らばった特許紛争を一元化し、権利解釈の一貫性を促し、法的安定性を確立するということである。
 統一特許裁判所UPCは、従来型EPと単一特許UPに関する訴訟を管轄する専門裁判所であって、主に特許侵害訴訟、特許無効訴訟を扱う。UPCの判決はUPCA批准国すべてにおいて有効となる。

<特徴>
・判例が蓄積されておらず、どのような判決が出されるのかの予測が難しい。

4.UPCA発効後のUPおよび従来型EP・SPCと管轄裁判所の関係

 UPは、UPCの専属管轄となる。
 従来型の欧州特許(EP)・SPC(Supplementary Protection Certificate)については、有効化した国により、2通りに分かれる。

(1)UPCA未批准国
 EUに加盟していない国(イギリス、スイスなど)、EUに加盟しているがUPCAに参加していない国(スペイン、ポーランド、クロアチア)、UPCAに参加しているが批准が完了していない国(ギリシャ、アイルランドなど)において有効化したEP・SPCついては、UPCA発効前と同様、UPCA発効後も各国の裁判所によって管轄される。UPCが関係することは無い。

(2)UPCA批准国
 UPCA批准国において有効化したEP・SPCについては、UPCA発効後にすぐにUPCの管轄となるのではなく、UPCAに基づく新制度に移行するための特別な経過措置の期間(移行期間:UPCA発効から7~14年)がとられることになった。

 (a)移行期間中
 移行期間が終了する前であれば、従来型EP・SPCをUPCの管轄からはずすこと(オプトアウト)ができる。UPCA発効の3か月前からUPCA発効までの間(サンライズ期間)にも、オプトアウトの事前申請が可能である。(従来型EPは、登録前であってもオプトアウト申請可能である。)後述するセントラルアタックのリスクを排除するためには、移行期間開始と同時にUPCの運用が始まるので、サンライズ期間にオプトアウト申請を行うことが重要である。

<オプトアウトしない場合>
 UPCと各国裁判所が共同して管轄する。特許権者は、UPCまたは管轄権のある1つ以上の国の裁判所において、権利行使ができる。特許無効訴訟や非侵害宣言については、UPCあるいは対象特許の管轄権のある国の裁判所のどちらかに提訴できる。ライバル企業が特許無効をUPCに提訴して無効判決が出た場合、一つの判決により複数のUPCA批准国において特許無効となるリスクがある。

<オプトアウトした場合>
 特許有効化を行った各国の裁判所において、各国の法律に則った裁判が行われる。すなわち、UPCA発効前と同様であり、UPCA発効後もUPCが関係することは無く、前述のセントラルアタックの可能性を排除できる。移行期間中にオプトアウトされたEPやSPCについては、移行期間の終了後もその存続期間満了まで、オプトアウトされた状態が継続し、各国の裁判所により管轄される。
 一旦オプトアウトを行っても、再度UPC の管轄に入ること(オプトイン)できるが、再度のオプトアウトは認められていない。オプトアウトはUPCで、オプトインは管轄の国内裁判所で、訴訟が提起されていないことが条件となる。

 (b)移行期間終了後
 移行期間終了後に登録となる従来型EP/SPCは、オプトアウトの選択肢が無くなり、自動的にUPCの管轄に入る。ただし、移行期間終了前に登録となっている従来型EP・SPCであって、移行期間中にオプトアウトしている場合は除く。
 特許侵害訴訟や特許無効訴訟については、UPCが管轄する。UPC条約に規定されていない訴訟(強制実施権、発明者適格、特許の帰属など)については、UPCの排他的な司法管轄権に属さないため、各国の裁判所に管轄権が残る。すなわち、各国の裁判所において裁判が行われる。

表2:移行期間中の特許の種類と管轄裁判所(特許侵害訴訟や特許無効訴訟の場合)の関係

特許の種類 管轄裁判所
単一特許UP UPC
従来型EP・SPC(UPCA未批准国) Local
従来型EP・SPC

(UPCA批准国)

オプトアウト Local
           オプトアウト無 UPC or Local

Local:各国の国内裁判所

5. 手続き

(1)単一特許UPの申請
 (a) 出願人は、欧州特許出願の特許公報での特許付与言及(the publication of mention of the grant)から1か月以内に、EPOに対しUP申請を行う。申請をしない場合には、UPを取得できない。

 (b) 経過措置として、単一特許早期申請と特許査定遅延申請が用意されており、これらの申請は2023年1月1日からUPCA発効前日(2023年5月31日)まで行うことができる。単一特許早期申請は、UPCA発効直後にUPを登録するための申請であって、EPC規則71(3)通知が送付されたEP出願が対象になる。特許査定遅延申請は、特許公報での特許付与の言及(the mention of the grant)をUPCA発効日以降に遅延させることにより、UPとして登録できるようにするための申請であり、EPC規則71(3)通知が受信されたがテキスト承認が完了していない出願が対象となる。

 (c) EPOでの手続き言語が英語の場合、UP申請時に英語以外のEU加盟国のいずれか1つの公用語への特許全文翻訳文を提出する必要がある。翻訳文は情報用であり、法的効力は無い。機械翻訳は不可である(Regulation(EU)1260/2012 (12))。

(2) オプトアウト申請
 (a) 従来型EP・SPCをUPCの管轄から外すためには、オプトアウトを申請する必要がある。オプトアウトを申請しない場合、UPCと各国裁判所の共同管轄となる。

 (b) 出願の段階でも、オプトアウトの申請ができる。オプトアウトは、特許有効化した国毎ではなく、特許/出願/SPCの単位で行う。オプトアウトは、移行期間(UPCA発効から7~14年間)の終了まで可能である。サンライズ期間(UPCA発効前の3か月)にも、オプトアウトの事前申請ができる。

 (c) 一旦ライバル企業によりUPCに紛争提起されてしまうと、その特許・SPCをオプトアウトできなくなってしまう。UPCが運用を始めるUPCA発効より前にオプトアウトできるよう、サンライズ期間が設けられた。

 (d)オプトアウト申請は、「正しい」名義人によってなされる必要がある。特許権者の名義や住所の変更があった場合には、それらの変更手続きを予め行っておくことをお勧めする。

6. 特許権者/出願人の検討点

(1)UP申請をするか否か
 (a) UPCA批准国の多くの国での権利を取得する場合、それぞれの国において有効化を行う従来型EPよりUPの方が経済的である。概ね、UPCA批准国のうち4か国以上で有効化を行うならば、UPの方が安くなる。
 (b) UPはUPCの管轄となる。獲得した権利は、判例が蓄積されていない新しい裁判所UPCにおいて紛争処理される。オプトアウトの選択肢はない。

(2)オプトアウトするか否か
 オプトアウトできるのは、従来型EP特許/出願/SPCである。多くのUPCA批准国で一度に特許を無効とされるような攻撃(セントラルアタック)を受ける可能性がある特許・SPCについては、サンライズ期間中のオプトアウトを検討すべきである。

8.参考文献

(1)EPOのUP/UPCサイト

(2)UP/UPCのホームページ

 

 

執筆者

特許部

外国特許情報委員会

[業務分野]

特許

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