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AIと著作権に関する考え方について(素案)(令和6年2月29日時点版)と生成AIと著作権の問題の根本的な解決策

生成AIと著作権の問題は、文化庁の文化審議会著作権分科会等で議論がなされており、文化審議会著作権分科会法制度小委員会から、AIと著作権に関する考え方について(素案)(令和6年2月29日時点版)が公表されている。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_07/

本素案は、判例及び裁判例の蓄積をただ待つのみでなく、解釈に当たっての一定の考え方を示すことも有益であるとの趣旨で行なわれており、判例及び裁判例の蓄積がない現状においては、実務上の影響は大きいと思われる。もっとも、本素案3頁は、以下のように述べている。

「なお、本考え方は、上記のとおり生成AI と著作権の関係についての考え方を示すものであって、本考え方自体が法的な拘束力を有するものではなく、また現時点で存在する特定の生成AI やこれに関する技術について、確定的な法的評価を行うものではない。個別具体的な生成AI やこれに関する技術の法的な位置づけの説明については、これを提供する事業者等において適切に行われることが望まれる。」

このように、本素案は、法的な拘束力を有するものではなく、具体的な事案の解釈については、裁判所での判断に委ねられることになる。生成AIといっても千差万別であり、今後の技術も急速に進歩していくことを考えると、上記のように、特定の生成AI や生成AIの技術について、確定的な法的評価を行うものではないとするのは妥当と思われる。

生成AIと著作権の議論は、一般的には、(1)AI開発・学習段階と、(2)生成・利用段階に分けて議論されている。このような区分も、生成AIを、現在の姿(画像生成AI、大規模言語モデル、音声生成AIなど)をベースに捉えるものであり、1~2年後には時代遅れになってしまうかもしれない。生成AIは、既にマルチモーダル化しており、精緻な動画も生成可能になり、他のシステムと組み合わされて、汎用人工知能(Artificial General Intelligence)の実現に近づいてきており、根本的に異なる議論となってしまうかもしれない。

しかし、ここでは、暫定的に現時点での分類にしたがって、本素案についての感想を述べる。

1.AI開発・学習段階
この段階は、著作権法第30条の4が検討の対象となる。本素案は、著作権法第30条の4は維持した上で、解釈について述べている。

本素案22頁は、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」について、「また、本ただし書への該当性を検討するに当たっては、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から、技術の進展や、著作物の利用態様の変化といった諸般の事情を総合的に考慮して検討することが必要と考えられる。」と述べる。

このように、諸般の事情を総合的に考慮して検討するとされており、基準としては明確でない。

また、本素案31頁は、「必要と認められる限度」について、「この点に関して、大量のデータを必要とする機械学習(深層学習)の性質を踏まえると、AI 学習のために複製等を行う著作物の量が大量であることをもって、「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではないと考えられる。」と述べる。

このように、「必要と認められる限度」については、一定の程度の明確化が図られているが、最終的には裁判所の判断になる。

著作権法第30条の4については、本素案において、様々な検討が行われているが、あまり明確になったとはいえず、権利者側には不満が残り、生成AIの開発者側には萎縮効果があるように思われる。

2.生成・利用段階
著作権法第30条の4は、この段階をカバーしておらず、大きな問題となる。

本素案32頁は、「上記アのとおり、既存の判例では、ある作品に、既存の著作物との類似性と依拠性の両者が認められる際に、著作権侵害となるとされており、生成AI を利用した場合にこれらが認められる場合については、以下のように考えられる。」として、既存の著作物との類似性、依拠性について検討している。

類似性の考え方については、本素案32頁は、「AI 生成物と既存の著作物との類似性の判断についても、人間がAI を使わずに創作したものについて類似性が争われた既存の判例と同様、既存の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できるかどうかということ等により判断されるものと考えられる。なお、ここでいう「表現上の本質的な特徴」に具体的に当たるものについては、個別具体的な事例に即し、判断されることに留意する必要がある。」としている。

既存の判例による判断については、具体的な事例に即し、判断されるため、具体的な事案においての判断については、必ずしも明確ではなく、裁判所により争われることになると思われる。

依拠性の考え方については、本素案33頁~35頁は、依拠性が認められるのはどのような場合か整理している。依拠性についても、最終的には裁判所の判断となると思われる。

特に注目される記載として、本素案34~35頁は、以下のように述べる。

「AI 利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しておらず、かつ、当該生成AIの開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合は、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められず、著作権侵害は成立しないと考えられる。」

この記載は、後で述べるデータインカムの制度を創設すれば、著作権的にクリーンな生成AIを作成できることを示唆している。

3.本素案に対する団体からの意見と、生成AIと著作権の問題の根本的な解決策
本素案に対しては、多数の団体からの意見が公表されている。本素案には、権利者側も、生成AIの開発者側も、十分な満足を得られていないことがうかがえる。

激しい意見の対立があるが、それぞれの意見は妥当な側面があり、この問題の解決が非常に難しいことを示唆している。

本素案は、できる限り色々な意見に配慮しようとした苦労の跡が伺える。しかし、権利者側の納得のいくものにはなっておらず、また、生成AIの開発者側も、開発への萎縮効果があり、満足のいくものにはなっていないことがうかがえる。

権利者側が100%満足し、生成AIの開発者側も100%満足する解決策を考える必要があると思われる。

生成AIと著作権の問題の本質は、性能のよい生成AIを作るためには、インターネットをクロールしたデータが現在のところは最もデータ量が大きいため、著作権の権利関係が明確でないインターネットをクロールしたデータ等を使わざるを得ない点にあると思われる。

しかし、インターネットをクロールしたデータよりデータ量が大きく、著作権の問題もクリアされたクリーンな超巨大データベースがあれば、生成AIがそれを使うことで、著作権の問題を根本的に解決できる。

そこで、インターネットをクロールしたデータよりデータ量が大きい、著作権の問題のないAI学習用の超巨大データベースを、日本全体で作ることが重要となる。

そのためには、著作権者やデータの作成者が、データを出願できる制度を創設し、AI学習用データとして利用することを許可した場合に、毎年の定期的な収入など、データインカム(DI)を与える制度の創設が重要となる。

インターネットをクロールしたデータのデータ量はたしかに莫大である。しかし、データインカムの制度を創設し、大量のデータを出願できるようにすれば、インターネットをクロールしたデータより圧倒的に大きなデータ量の超巨大データベースを作ることができる。

著作権者が、AI学習用データとして学習することを許可したデータに、十分な金額のデータインカム(DI)を与えることにより、著作権者側も生成AIの進歩から大きな利益が得られるようになる。

また、著作権のないデータについても、データインカム(DI)を与えて、データの作成と出願を促進することが、データベースを充実させ、AIの発展にとって重要となる。著作物ではない有益なデータは多いため、データインカム(DI)の制度は重要となる。

クリーンな超巨大データベースは、無料でAIの学習に利用できるようにし、生成AIの開発者が著作権の問題を気にせずに、萎縮効果ゼロで開発ができるようにすることが可能である。

また、著作権者側も、生成AIは原則としてクリーンな超巨大データベースを使うように著作権法30条の4を改正することで、自己の著作物をAIの学習に使わせるかどうかを自由に決めることができるようになる。もちろん、データインカムの制度の下で、データを出願することで、定期的な収入(データインカム)を得ることも選択できる。

このように、権利者側が100%満足し、生成AIの開発者側も100%満足する解決策は、データインカムの制度の創設により可能となる。

データインカムの制度を創設し、ベーシックインカムのように、毎年データインカム(DI)が払い込まれる仕組みが必要であろう。定期的な収入となるほか、データ登録者としての社会貢献も可能となる。高齢者も、身の回りの有益なデータを登録することができ、超高齢化社会を迎える日本の将来にも役立つ。

データインカム(DI)の給付の対象となるデータの登録に際しては、提供されたデータに個人情報が含まれないかなど、著作権以外の点も審査をして、著作権以外の問題もクリアをしたデータベースを作ると使いやすいであろう。

このようにして、著作権の問題のない(著作隣接権、著作者人格権、個人情報保護法、プライバシーなどの問題もない)、クリーンなデータの超巨大データベースが出来上がる。

筆者は、このようなクリーンなデータベースを用いたAIのアーキテクチャーを、「スーパークリーンアーキテクチャー」として提案している

生成AIは、現在の生成AIのイメージで捉えている人が多いが、これは表面的な見方にすぎない。AIが進歩をしていくと、人間の労働を代替できるものになりうる。

汎用人工知能(AGI)がGDPの大半を生み出すようになりうる。この場合AIと著作権の問題が解決されていなければ、GDPの大半を失うことになりうる。

著作権の問題のないデータのみを学習に使った生成AIの生成物は、著作権侵害にならないことを、法律を制定して制度的に保障し、インターネットをクロールしたデータよりデータ量が大きな超巨大データベースを作ることができれば、著作権とAIの問題を根本的に解決することができるであろう。

執筆者

法律部アソシエイト 弁護士

岡本 義則 おかもと よしのり

[業務分野]

企業法務 国際法務 知財一般 特許 意匠

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