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日本におけるAI戦略会議:人工知能(AI)の活用の促進と法律の明確化の必要性

本年5月9日に、日本におけるAI戦略会議が新設されるとのニュースがありました。このような取組みは、人工知能(AI)のより良い活用のために、歓迎されるものでしょう。

政府による人工知能(AI)への関与については、規制の強化や腐敗につながるのではないかという意見もあります。たしかに、政府による関与が、産業の強化につながらなかった例はあるでしょう。しかし、人工知能(AI)については、活用の促進のために、法律を明確にすることが必要です。過度な規制をするのではなく、人工知能(AI)の活用の促進につながるような法整備が必要と思われます。

まず、生成AI等との関係で、著作権法との関係の明確化が必要と思われます。日本は、著作権法30条の4など、人工知能(AI)の活用に役立つ規定を既に立法しており、これは先見の明があったといえるでしょう。

しかし、著作権法30条の4は、極めて優れていますが、人工知能(AI)の活用のポテンシャルを高めるという観点からは、さらに明確化が必要な点があると思われます。たとえば、利用規約との関係が問題となります。著作権法30条の4などの規定に反する利用規約を定めた場合の取扱いなど、利用規約との関係は、立法により明確化すべきでしょう。

また、利用規約は、様々なものがあり、長くてわかりにくいものもあり、準拠法も日本法とは限りません。人工知能(AI)の利用促進の観点からは、人工知能(AI)に関する利用規約については、誰でもわかるような、標準的なものを定めることが必要となるでしょう。

分かりやすい標準的な利用規約等について参考になるものとして、政府標準利用規約や、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスがあります。しかし、人工知能(AI)の活用の観点からは、人工知能(AI)の活用に焦点を当てた、新しい標準的な利用規約を作り、政府や民間で使える標準のものとして、解釈等を明確化する必要があるでしょう。その際には、わかりやすさを重視し、一般の人でも容易に理解できるようなものが必要となるでしょう。

また、日本は裁判例の数が少ないため、実務が明確にならない側面があります。不明確性が残ると人工知能(AI)の活用の障害となりうる部分については、立法やガイドライン等で明確化し、時代の進展と共に頻繁に修正する必要があるでしょう。あるいは、裁判所の実務において、第三者における意見を募集し、判例による取扱いを明確化するために、令和3年特許法改正(令和3年法律第42号)で導入された、第三者意見募集制度(特許法105条の2の11。特許法65条6項及び実用新案法30条において準用)の制度の活用が有用と思われます。現在は、特許侵害訴訟等において制度が導入されていますが、米国におけるアミカスブリーフのように、他の知的財産事件や、一般の事件にも制度の導入を拡大するのが有用と思われます。

また、著作権者や著作権の対象とならないAI学習用データの作成者の利益をどのように実現するのかも問題となるでしょう。人工知能(AI)の活用の促進につながるように、人工知能(AI)の学習用データとしてデータを登録した場合には、国から、定期的な収入が得られるような制度が必要となるでしょう。

これは、AI学習用データによる収入(データインカム(Data Income(DI))の実現として、重要となると思われます。筆者は、人工知能(AI)の次世代社会のための法的インフラとして、協力インカム(CI)、データインカム(DI)の概念を、ベーシックインカム(BI)を補完する制度として、提案しています。人工知能(AI)の進展による、いわゆる技術的失業の問題に対して、ベーシックインカム(BI)の実現が議論されていますが、協力インカム(CI)、データインカム(DI)を総合的に考慮することが有用と思われます。

現在の状況で、人工知能(AI)を活用する際に、著作権の問題が一つの障害となりえます。著作権者にデータインカム(DI)による収入の機会を与えて、人工知能(AI)の学習用データとしての著作物の登録を促進し、著作権者の利益を図ることと、著作権のことを気にせずに人工知能(AI)を活用できることを両立する社会の実現が望まれるでしょう。

また、著作権の対象とならないデータの作成についても、データの作成を促進するためにデータインカム(DI)の活用が重要となるでしょう。ChatGPTも、データを大量に用意できる英語版と、データが相対的に少ない日本語版では、性能の差があります。このように、良質な人工知能(AI)の学習用データをどれだけ用意できるかが、人工知能(AI)の性能に直結してきます。

人工知能(AI)の活用による経済効果は、今後、どんどん増大していき、GDP(Gross Domestic Product)と共に、人工知能(AI)をどれだけ活用できたか(Gross AI Utilization(GAU))が重要となる時代になっていくでしょう。また、人工知能(AI)の学習用データをどれだけ作成できるか(Gross Data Product (GDP))も、新しいGDPとして重要となってくるでしょう。

日本におけるAI戦略会議においては、人工知能(AI)の活用に向けた法的なインフラ整備が求められると考えられます。その際には、人工知能(AI)の活用の促進と、そのために、法律的な不明確性をできる限り減らしていく方向性が、一つの視点となりうると思われます。

執筆者

法律部アソシエイト 弁護士

岡本 義則 おかもと よしのり

[業務分野]

企業法務 国際法務 知財一般 特許 意匠

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