人工知能(AI)の活用と規制:ChatGPTを禁止する議論について
地域:日本
業務分野:知財一般
カテゴリー:法令、その他
ChatGPTを禁止する議論が話題になっています。
従来は、法律家により、人工知能(AI)を規制する方向の議論が多くなされています。たしかに、人工知能(AI)に関しては、著作権の問題、個人情報保護の問題など、多くの法律的な議論があります。法律家の立場からは、人々の人権を守るために、人工知能(AI)を規制する方向での検討がなされるのは当然のことでしょう。 しかし、一方で、人工知能(AI)は大きな可能性を秘めており、社会に大きな福利をもたらしうるものです。ChatGPTについても、2023年3月15日にGPT-4が日本で利用可能になってから、わずか1か月あまりの間に、ものすごい速さで数多くの応用が生まれています。人工知能(AI)の技術の進歩は極めて速く、人工知能(AI)の研究者や技術者でさえも追いつくのは困難であり、法律家が人工知能の進歩についていくのは難しくなっている側面があるでしょう。 日本の場合、世界の中でも、超高齢化社会が進んでいます。75歳以上の高齢者も総人口の15%以上に達しています。若い人々や現役世代も、超高齢化社会と無縁ではいられません。超高齢化社会の進展により、介護や身近な人の老病死の問題、社会保障費の増大、税率の上昇、年金の減額など、超高齢化社会による苦しみは、高齢者だけではなく、社会全体の問題でしょう。 人権保障の観点からは、人工知能(AI)の技術の進歩による、超高齢化社会による老病死の苦しみの緩和が重要になるでしょう。たとえば、人工知能(AI)の技術の進歩は、医療の進歩に貢献します。また、超高齢化社会により労働人口が減っても、人工知能(AI)の活用が十分になされれば、労働人口の減少は問題とならなくなるでしょう。人工知能(AI)の活用は、多くの人々を苦しみから救い、人権保障の実現に資する側面があるでしょう。 現在の日本の状況の中で、人工知能(AI)への過度な規制が、憲法の定める人権保障の観点から本当に好ましいのかについて、技術のポテンシャル等の点も含めて、検討が必要でしょう。人工知能(AI)の技術に関しては、そのポテンシャルは極めて大きいと考えられますが、人工知能(AI)の研究者の間でも、その将来や問題点について、見解が分かれています。 このように、人工知能(AI)に関係する法律問題は、極めて難しい問題であり、法律的な問題を検討する際には、法律家だけで議論するのではなく、人工知能(AI)の技術やその社会的、経済的な影響等に詳しい有識者、人工知能(AI)により影響を受ける幅広い層の人々を含めて、社会全体での十分な議論が必要となるでしょう。 その意味で、裁判所における人工知能(AI)に関する法律的な問題の検討の際には、令和3年特許法改正(令和3年法律第42号)で導入された、第三者意見募集制度(特許法105条の2の11。特許法65条6項及び実用新案法30条において準用)の制度が参考になると思われます。現在は、特許侵害訴訟等において制度が導入されていますが、米国におけるアミカスブリーフのように、他の知的財産事件や、一般の事件にも制度の導入を拡大するのが有用と思われます。なお、制度導入以前にも、裁判所による意見募集が行なわれたことがあります(平成26年5月16日知的財産高等裁判所大合議判決(平成25年(ネ)第10043号債務不存在確認請求控訴事件))。 法律家だけで議論をして結論を出すには、世の中は既に複雑になりすぎている側面があると思われます。人工知能(AI)に関する法律的な問題についても、技術的な事項や社会への影響を含めて、多くの人々の議論により、検討を深めていくことが必要となるでしょう。 ChatGPTについても、その能力は、GPT-4の出現により相当の改善を見ましたが、まだ発展のごく初期段階と思われます。この先のポテンシャルや、社会的な影響も含めて、本当に規制が必要なのかについて、社会全体で考えていく必要があるでしょう。 |
執筆者
法律部アソシエイト 弁護士
岡本 義則 おかもと よしのり
[業務分野]
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