法律情報

国内外の最新の法律動向や、注目のトピックに関する法律情報を随時発信
知的財産全般、著作権法、不正競争防止法、種苗法等についての法律情報を
お探しの場合には「知財一般」を選択して下さい。

欧州商標判例「Mitsubishi v Duma Forklifts」事件(商標の剥奪行為)

事件番号: C-129/17
判決日:2018年7月25日
裁判所:欧州司法裁判所1)

今回紹介する判決は、商標権者が第三者による「商標剥奪行為」を阻止できるかが争われた事案である。はじめに判決概要について述べ、次に筆者のコメントを記載した。

1. 判決概要

権限なき第三者が欧州経済領域内(EEA)2)に商品を輸入すること、領域内市場に投入することを目的として登録商標を剥奪し商品にあらたな標章を付する行為に対し、商標権者が阻止できると判断した上で、欧州司法裁判所は、欧州経済領域外で取得したMitsubishi製のフォークリフトからMitsubishi商標を剥奪し、あらたな標章を付するDuma社の行為を中止すべきとした。

原告:(1)Mitsubishi Shoji Kaisha Ltd(以下「Mitsubishi」)
欧州連合商標・ベルギー登録商標「MITSUBISHI」、「」(以下、これらを「Mitsubishi商標」という。)の所有者である。
(2)Mitsubishi Caterpillar Forklift Europe BV(以下「MCFE」)
オランダで設立された企業で、欧州経済領域においてMitsubishi商標を付したフォークリフトを製造し供給する権限を有している。

被告:(1)Duma Forklifts NV (以下「Duma」)
ベルギーで設立された企業で、新品・中古品のフォークリフトを世界各国で購入販売する業務を主に行っている。また、“GSI”、“GS”、“Duma”の商標を付した自社のフォークリフトを販売している。
(2)G.S. International BVBA(以下「GSI」)
ベルギーで設立された企業で、Dumaと提携しており、本社と管理部門を共有している。      輸入したフォークリフトを組み立て、修理を行い、部品とともに世界各国に輸出している。商品を欧州の仕様に変更し独自のシリアル番号を付してDumaに配送している。

被告の行為

2004年1月1日から2009年11月19日までDumaとGSIは、同意なくMitsubishi商標を付したフォークリフトを欧州経済領域内に並行輸入していた。
2009年11月20日からDumaとGSIは、欧州経済領域外でMitsubishiグループの企業よりフォークリフトを入手し欧州経済領域(税関の倉庫で保管手続きを行っている3)に持ち込んだ。その後、両社はMitsubishi商標を剥奪し、欧州の基準に適合するよう修正を加え、製造番号標と製造番号を独自の標章に付け替えて欧州経済領域内に輸入し、領域内外で販売した。

原告の請求

MitsubishiとMCFEは、ベルギー裁判所に被告側の行為の中止を求める請求を行ったが、退けられたため控訴した。

ベルギー控訴裁判所の判断

並行輸入については商標法に反するとして、Mitsubishiの請求を認めた。
欧州経済領域への輸入に際しEEA加盟国以外で製造されたMitsubishiフォークリフトに付された商標を剥奪し、あらたな標章を付す行為について、商標権者が阻止できる使用に該当するか基準が定められていないとして手続きを停止した。そして、先行判決を求めるべく欧州司法裁判所の判断を求めた。

欧州司法裁判所の判断

登録商標の所有者にあたえられた排他的権利について規定する欧州商標指令第5条(1)2008/95及び欧州商標規則第9条(1)第1段落207/2009に基づき商標権者が以下の行為を阻止できると解釈してよいか検討を行った。4)

権原なき第三者が、まだ欧州市場に置かれていない商品が税関の倉庫で保管されている段階で、欧州経済領域内の市場に輸入・販売するための作業として、登録商標を剥奪し、あらたな別の標章を付する行為

裁判所は、まず「商標権による保護を確実とするため、加盟国で商標登録した商標権者は最初に欧州経済領域内の市場に商品を投入することにつきコントロールできることが原則である。」ことを明確にした。理由を次にように述べている。
「商標指令第7条(1)2008/95と商標規則第13条(1)207/2009は、欧州経済領域の市場に投入された商品について商標権者の権利が消尽する範囲について規定している。」5)
「この規定は、商標権者が欧州経済領域内で権利を消尽させることなく欧州経済領域外で商品を販売することを認めるものである。商標権者が欧州経済領域外で販売したとしても権利は消尽せず、同意なくその商品を輸入する行為を阻止することができることを明確にしている。欧州立法機関は商標権者が商標を付した商品を欧州経済領域の市場に最初に投入することをコントロールすることを認めている。」

次に「商標の所有者には、商標の機能が保証されるという特別な利益を保護するために排他的権利が与えられる。第三者が商標を使用することで商標の機能に影響する、あるいは、影響するおそれがある事案に対し権利行使が認められるべきである。」とし、「商標の機能は商品・役務の出所を需要者に保証するという商標の本質的機能だけでなく、特に商品の品質、役務の質を保証する機能、コミュニケーション機能、投資機能、広告機能がある。」とした。6)

いくつかの判例法を挙げた上で、今回の被告の行為との相違点があるとしても、「商標と同一の標識を除去することは、指定商品が最初に欧州経済領域の市場に投入される際に商標が付されているという状況を妨害する。結果として、判例法で商標権者に認められた本質的権利(商標を付した商品を最初に欧州経済領域内の市場に投入することにつきコントロールする権利)による利益を奪うものであること」、「商品を最初に欧州経済領域の市場に投入することを目的として商標を剥奪し新たに標章を付する行為は、商標の機能を損なうこと」を考慮しなければならないとした。

また、裁判所は、C-379/14の事件で「加盟国において欧州経済領域の市場に商品を最初に投入することをコントロールする権利を妨げる第三者の行為はいかなるものであっても商標の本質的機能を害するとしている。」と判断されていることを考慮すると出所表示機能が害されていることは十分明らかであるとした。

そして、「商標が剥奪され、新たな標章が付されたことによって、まだ商標権者や使用権者が商標を付した商品を販売していない地域において商品の品質により消費者を引き付ける機能を妨害し、投資機能、広告宣伝機能に悪影響を及ぼした。登録商標を付した商品が市場に投入される前、つまり消費者が商品を商標と関連付けるより先に商品を知ったことは、消費者を引き付け維持するための名声を高める道具、販売促進活動や営業戦略の道具としての商標権者の使用を著しく妨害するものである。加えて、最初に欧州経済領域に商品を投入することで得られる経済的価値や投資の価値を奪うこととなる。」「商標権者が最初に商標を付した商品を欧州経済領域の市場に投入する権利を侵害すること、商標の機能を害することは、健全な競業秩序を維持するという法目的に反する。」と述べた。

さらに「本件商標と同一の標識を剥奪し他の標識を付する行為が、商品がまだ税関倉庫での保管手続き中に行われたとしても、上記の結論は変わらない。」と述べた。

結論として「欧州指令第5条2008/95及び欧州規則第9条No207/2009の規定により、まだ欧州経済領域内の市場に置かれていない商品を輸入する目的で、権限なき第三者が税関倉庫において登録商標を剥奪し別の標章を付する行為を商標権者は阻止できる。」とした。

2. コメント

欧州商標指令第5条3. 2008/95は、禁止行為について規定する。

次の事項は,特に禁止することができる。
(a) 標章を商品又はその包装に貼付すること
(b) 標章の下で商品を提供し若しくは市販し,又はこれらの目的で所持し,又はその下でサービスを提供し又は供給すること
(c) 標章の下で商品を輸入し又は輸出すること
(d) 標章を商用紙及び広告に使用すること

「商標剥奪行為」は含まれていないが、「特に・・・」とあることから、規定された禁止行為は例示であり、これら以外の行為であっても商標の機能を害するおそれがある場合には商標権によりこれを禁止できると考えられる。今回の判決でも「商標の所有者には、商標の機能が保証されるという特別な利益を保護するために排他的権利が与えられる。第三者が商標を使用することで商標の機能に影響する、あるいは、影響するおそれがある事案に対し権利行使が認められるべきである。」と述べられている。

今回の事案では、「商標剥奪行為」は商標の持つ本質的機能である出所表示機能だけでなく、投資機能、広告宣伝機能をも害するものであることが明らかにされた。

また、欧州司法裁判所は、商標指令第7条(1)2008/95と商標規則第13条(1)207/2009の権利消尽に関する規定を挙げ、「商品を最初に域内に投入することをコントロールする権利」について言及している。これは、「商標剥奪行為」が、「欧州経済領域外で商標権者(のグループ企業)より購入した商品(真正品)」につき、「まだ欧州市場に置かれていない商品が税関の倉庫で保管されている段階で」行われたことを考慮したものと思われる。かかる権利は、事件C-324/08(2009.10.15.)において以下ように示されている。
「欧州規則第7条(1)は欧州連合領域内で商標権者の同意のもと商品が販売された場合に商標権が消尽することを規定している。一方、欧州連合領域外で商品が販売された場合には消尽しないと解釈できることから、商標権の保護と登録商標を付した商品の市場取引を保証するために、商標権者は原則として最初に欧州経済領域内に商品を投入することをコントロールできる。」
そして、「欧州経済圏の市場に商品を最初に投入することをコントロールする権利を妨げる第三者の行為はいかなるものであっても商標の本質的機能を害する。」ところ、被告の行為は、商標権者が欧州経済領域で商標の機能を発揮させる使用を事前に妨げるものであり、商標を付した商品の経済的価値や投資の価値を奪うとした。

日本ではどうか。「商標を剥奪する行為」は、商標法上の使用の定義(第2条第3項各号)には含まれていない。それでも、かかる行為は商標の持つ機能を害すると考えられるので商標権侵害を構成するという見解がある。
「指定商品に付された登録商標をその商品が流通している過程において第三者が剥奪抹消し、これに代え自己の商標を使用して流通させる行為も商標権を侵害する行為であると解される。それは他人の登録商標を使用する行為ではないが、他人が流通過程において登録商標を指定商品に独占的に使用する行為を妨げ、その商品標識としての機能を中途で抹消するためのものであるから、36条の侵害行為に該当する。(西沢茂稔「商標権の消極的侵害について」「特許管理」vol.14,1964年3号、網野誠「商標(第6版)」第846頁)」

一方、商標権侵害を構成することには無理があるが、これらの行為は違法と目されるべきであり、禁止されるべきという見解がある。
「これらの行為は登録商標への信用の化体を妨害したり、登録商標に帰せられるべき信用を自己の商標に化体させる行為であり、信用形成のインセンティヴとして商標が機能することを妨げる点で、競争法上、違法と目するべきである。しかし25条、37条に該当するものでない以上、解釈論としてみても、商標権侵害と構成することには無理がある。立法論として考えてみても、商標が登録されているか否かということに拘わらず禁止すべきである。現行法上も、商品に付された商標を抹消して自己の商標等、他の商標を付する行為は、製造元や販売元を偽る行為として、不正競争防止法2条1項12号に該当する。単に抹消するだけで何の商標も付さずノーブランド品として販売した場合でも、民法709条の不法行為には該当するというべきであろう。(田村善之「商標法概説(第2版)第150頁」)」

いずれの立場でも、「商標剥奪行為」は商標の機能を害するもので、禁止されるべきとする点で共通している。

商標が付された商品が転々流通する中で、商標に接した取引者、需要者、最終消費者がその商品の出所を識別できてはじめて品質保証機能が発揮される。また、信用が化体されることで商標権者は商標の広告宣伝機能による効果を高めることができる。そして、欧州司法裁判所が言及している投資機能の効果を享受できる。「商標剥奪行為」はこれらの機能を妨げるもので商標制度の根幹に影響するものである。当然認められるべきではないだろう。

以上

1) 欧州司法裁判所(Court of Justice of European Union)CJEU

その役割は、次の通りである。
EU法が欧州連合各国で同じように解釈され適用されることを保証するとともに、EU法を各国および各機関に確実に順守させる。
欧州連合各国裁判所はEU法を適切に解釈し適用しなければならないが、国によっては解釈が異なる可能性がある。EU法の効力につき疑義が生じた場合に各国裁判所は欧州司法裁判所に説明を求めることができる。各国法、もしくは実務がEU法に沿ったものであるか決定する際にも説明を求めることができる。

2) EEA(European Economic Area)

1994年1月1日に発効した協定に基づき欧州連合(EU)と欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー(スイスを除く))を単一市場とする経済領域

3) 税関での保管業務

欧州連合国外の商品を税関の倉庫で保管しておくことを意味する。商品が環境や健康に害を及ぼさない限り保管期限はない。税関の管理下に置かれた場合にはじめて輸入に関する義務が生じ業務上の措置が必要となる。商品が流通し欧州域内で商品が消費されるには、輸入に関する義務(関税の納付など)が履行されていなければならない。
日本でも貨物を税関の指定保税地域に保管することができる。その場合、輸入申告、税関検査、関税の納付等を行い、輸入許可を得るまで貨物を国内に引き取ることができない。

4) 欧州指令第5条

1. 商標の登録は,それに存在する排他権を所有者に対し付与する。 当該登録商標の所有者は,自己の承諾を有さないすべての第三者が商品又はサービスに関して業として標章を使用することを防ぐ権限を有する。
(a) その標章が商標と同一であって,商標の登録対象である商品又はサービスと同一である商品又はサービスに関して使用されている場合
(b) 標章が商標と同一又は類似であり,商標の登録対象である商品又はサービスと同一又は類似である商品又はサービスに関して使用されている場合であって,公衆に混同の虞が存在する場合。混同の虞には標章と商標の出所の連想の虞を含む。

指令(Directive):達成されるべき結果については構成国を拘束するが、その方式及び手段については、各構成国に委ねられる。
規則(Regulation):国内法に優先し、構成国に対して直接適用され、拘束力を有する。(松井宏記「共同体商標と共同体意匠の実務」第10頁)

5) 指令第7条(1)“商標権の消尽”

商標は,所有者により又はその同意を得て当該商標の下で連合域内において市販されている商品に関して,その使用を禁止する権限を所有者に付与するものではない。

6) 商標の本質的機能

需要者や最終消費者が商品・役務につき他の出所と区別できるようにするため、出所の同一性を保証する機能である。健全な競争システムにおける商標の役割を担うため、特に同一の商標を付したすべての商品・役務がその品質について責任を有する一者のコントロールのもと製造され、供給されていることを保証するものである。

投資機能
商標を採用することにより所有者が顧客を引き付け、忠誠心を保つために様々な営業手法を用いて名声を獲得し維持することを可能にするための機能である。商標権者の競合者など第三者の使用が同一の標章、関連する商品・役務についてなされ、商標権者が顧客吸引力や忠誠心を維持・増加するための商標の使用が妨げられたとき、その第三者の使用は商標の機能を害することとなる。欧州指令第5条(1)及び欧州規則第9条(1)(a)に基づき商標権者はこれらの使用を阻止することができる。

商標の広告機能
顧客に情報を発信し訴求するために広告の目的で商標を使用することを指す。商標権者が販売促進や商業的戦略のための道具として商標を使用することに悪影響を与える場合、商標権者は第三者が同意なく同一の商標を指定商品・役務に使用することを阻止できる。

執筆者

商標・意匠部アソシエイト 弁理士

高田 雄一郎 たかた ゆういちろう

[業務分野]

意匠 商標

高田 雄一郎の記事をもっと見る

商標分野の他の法律情報

検索結果一覧に戻る

お電話でのお問合せはこちら

03-3270-6641(代表)

メールでのお問合せはこちら

お問合せフォーム

〒100-0004
東京都千代田区大手町2丁目2番1号
新大手町ビル 206区
電話 : 03-3270-6641
FAX : 03-3246-0233

ご注意

  • ・本サイトは一般的な情報を提供するためのものであり、法的助言を与えるものではありません。.
  • ・当事務所は本サイトの情報に基づいて行動された方に対し責任を負うものではありません。

当事務所のオンライン及びオフラインでの個人情報の取り扱いは プライバシーポリシーに従います。