商標判例読解37 「湯~とぴあ」事件知財高裁判決(結合商標の類否)
業務分野:商標
カテゴリー:判例
著者など | 伊達 智子 ユアサハラ法律特許事務所/商標判例研究会 |
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業務分野 | 商標 |
出版日 | 平成28年4月12日 |
掲載誌・出版物 | 特許ニュースNo.14181 |
出版社 | 一般財団法人 経済産業調査会 |
概要
当事務所・商標判例研究会による連載「商標判例読解」の第37回
事件番号:平成27年(ネ)第10037号
係属部:知的財産高等裁判所第4部
判決日:平成27年11月5日
結論:控訴認容(原判決中控訴人敗訴部分の取消し、被控訴人の請求棄却)
関連条文:商標法37条1号
本件は、控訴人の運営する入浴施設において使用される標章(被告標章)が原告商標権に係る登録商標(原告商標)に類似し、原告商標権を侵害するとして、被控訴人が、被告標章の使用差止め等を求めた事案である。
【当事者】
控訴人(一審被告) 函南町(静岡県内の地方公共団体)
被控訴人(一審原告) 株式会社湯ーとぴあ(温泉ホテルの経営を主な業務としている株式会社)
【原告商標】
【被告標章・被告商標】
【本判決】
原告商標と被告標章の類否につき、「ゆうとぴあ」と称呼される語は入浴施設の提供という役務において全国的に広く使用されているとして、原告商標の「湯~とぴあ」と被告標章の「湯~トピア」の各部分はいずれも出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできないとした。そして、原告商標全体と、被告標章の「湯~トピアかんなみ」の部分を対比し、原告商標と被告標章の類似性を否定した。
【検討】
1.原告商標について
(1)要部認定
原告商標の「湯~とぴあ」の部分について、原判決は、強く支配的な印象を与える部分であると認定したのに対し、本判決は、「ゆうとぴあ」と称呼される語は全国的に広く使用されているとして、自他役務の識別力が弱く、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできないと認定した。
しかし、原告商標の「湯~とぴあ」の部分は、「ユートピア」の「ユ」を「湯」に置き換えた造語であり、しかもその文字が上段の文字よりもはるかに大きく目立つ色彩、態様で示されていることからすれば、「湯~とぴあ」の部分が看る者の注意をひき、強い印象を与えることは間違いない。また、全体を一連に称呼した場合には冗長となることも考慮すると、「湯~とぴあ」の部分を要部と認定するのが自然であったように思う。
(2)独占適応性の問題
本判決は、「ゆうとぴあ」と称呼される語が指定役務において全国的に相当数使用されていることを重視し、原告商標について、全体として一体的に観察するのが相当であるとした。
この判断を前提にすると、被告標章以外の「湯ーとぴあ」又はこれに類する標章についても原告商標との類似性は否定されるだろう。本判決は「ゆうとぴあ」と称呼される部分について特定の人に独占させるべきではないと考えたのかもしれない。
2.被告標章(地名を含む結合商標)の要部認定について
本判決は、被告標章の上段部分について、「湯~トピア」及び「かんなみ」の各部分は、同様の字体で、1行でまとまりよく記載されている上に、いずれも出所識別力が弱いから、これらの部分を分離観察せずに、一体的に観察するのが相当であるとした。
しかし、原判決を含め、一般に、地名を含む結合商標については、地名部分は産地販売地であり自他識別力がなく、地名以外の部分が要部であると考えられていることからすると、より積極的な理由付けがなされてもよかったように思われる。例えば、入浴施設の名称に地名が含まれている場合は、取引者需要者はその地名に着目すると考えられることや、地名部分がひらがなで表されている場合は漢字で表される場合に比べて読み易く、看る者の注意をひくこと、「湯~トピアかんなみ」を一連に称呼しても冗長でなく、ごく自然に称呼しうることなども考慮できたように思われる。
3.登録商標使用の抗弁
被告は、原審及び控訴審において、被告標章が登録された事実を主張しているが、原判決も本判決も、登録商標使用の抗弁について言及していない。
本判決は、原告商標と被告標章は類似しないとして被控訴人の請求を全て棄却したから、同抗弁に言及する必要はないと考えたのかもしれないが、原告商標と被告標章は類似するとして原告の請求を認めた原判決は、同抗弁について言及する必要があったと思われる。
なお、記事の全文は「特許ニュース」No.14181(平成28年4月12日号)をご覧ください。
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