人工知能基本計画骨子と人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針骨子の公表
地域:日本
業務分野:知財一般
カテゴリー:法令、その他
⼈⼯知能基本計画⾻⼦と人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針骨子が公表されている。11月27日(木)まで、意見も募集されている。
出典:内閣府ウェブサイト
URL:https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20251121ai.html
人工知能基本計画は、知的財産基本計画などと共に、知的財産の観点からも、その動向を押さえておくことが有用と思われる。
以下、⼈⼯知能基本計画⾻⼦と人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針骨子の記載の一部について、特に知的財産の観点から暫定的に検討する。
1.⼈⼯知能基本計画⾻⼦ 4頁11行目~4頁14行目について
⼈⼯知能基本計画⾻⼦ 4頁11行目~4頁14行目
・⽇本社会全体で、世界最先端のAI技術を、適切なリスク対応を⾏いながら積極的に利活⽤することで、新たなイノベーションを創出。
・AIイノベーションの基盤となるデータの集積・利活⽤、特に組織を超えたデータの共有を促進することで、AIの徹底した利活⽤やAIの性能向上を可能とする。
上記記載へのコメント:
⼈⼯知能基本計画⾻⼦は、4つの基本的な方針の1つとしてAI利活用の加速的推進を挙げている。適切なリスク対応を⾏いながらAIを積極的に利活⽤し、イノベーションを創出する方針は重要と思われる。データの集積・利活用についても言及されており、良い方針と思われる。
AIイノベーションは、特許制度との関係でも重要となる。
AIを用いた発明の問題については、知的財産戦略2025で検討され、産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会で検討がなされている。
AIの性能が急速に向上し、AIを用いた科学技術研究や発明が現実的なものとなっている。AIの知能が、ノーベル賞級の科学者の知能に達した場合、AIを用いた科学技術研究と発明により、健康、環境、医療、防災、エネルギーなど、あらゆる面で国民生活の向上が期待される。
そのためには、高度なAIの時代にふさわしい、AI発明に関する特許制度等の改正が必要となると思われる。
2.⼈⼯知能基本計画⾻⼦ 7頁23行目~26行目について
⼈⼯知能基本計画⾻⼦ 7頁23行目~26行目
(1) ⽇本国内のAI開発⼒の強化
① 新たなデータセット、AIの開発に必要なマルチモーダルなデータの創出・提供等のデータ連携基盤の構築【 ◎内閣府(AI室)、デジタル庁、総務省、⽂科省、経産省】
上記記載へのコメント:
⼈⼯知能基本計画には、AI政策の最大のカギとなる「AI学習用データの大規模な整備」の政策が十分に盛り込まれることが重要と思われる。
AIの性能の向上には、計算資源(電力の問題を含む)の整備も重要である。海外では計算資源の整備に天文学的な資金を投じ始めている。
AI学習用データの整備は、天文学的な資金が必要な計算資源の整備に比して、費用対効果が高く、環境にもやさしく、AIの性能向上だけでなく、AIの安全性向上にも貢献する点で重要と思われる。
データは、産業革命の時代の道路や鉄道などのインフラと同様、AI革命の時代の基本的なインフラと捉えることができる。
現在は、産業革命で喩えれば、自動車が発明されたが、道路が舗装されていない状況といえる。民間がデータを集めて、馬車の通る私道が若干舗装された状態になっても、自動車の潜在能力は全く発揮できない。民間の私道だけで、馬車の通る私道の至る所に料金所があるような状態では、自動車が発明されてもどこにも行けないであろう。
AI革命の時代には、国道、県道、私道(無料)、私道(有料)など、道路の整備と同等以上の規模で、AI学習用データの整備について、国、地方公共団体、非営利団体、営利団体等の総合的な取り組みが必要と考える(データ道路構想)。
「AI学習用データの大規模な整備」には、「データインカム」の制度の導入が有用であり、国、地方公共団体、非営利団体、営利団体等の収集したデータを一元的にアクセス可能とする「データ道路構想」の実現が必要である。
「AI学習用データの大規模な整備」の問題は、AI政策において最も重要な問題と考えられる。AIの性能の向上だけでなく、AIの違法行為を防止し、安全なAIを実現するために不可欠だからである。
3.⼈⼯知能基本計画⾻⼦ 8頁14行目~16行目について
⼈⼯知能基本計画⾻⼦ 8頁14行目~16行目
① ⽇本の⽂化・習慣等を踏まえた信頼できるAIの開発・評価、質の⾼い⽇本語データの整備・拡充( 既存の集積データの利活⽤含む)【 ◎内閣府(AI室)、デジタル庁、総務省、⽂科省、経産省】
上記記載へのコメント:
⼈⼯知能基本計画には、AI政策の最大のカギとなる「AI学習用データの大規模な整備」に関する政策が十分に盛り込まれることが重要と思われる。
上記の記載には、内閣府(AI室)、デジタル庁、総務省、⽂科省、経産省が明記されており、「AI学習用データの大規模な整備」の問題は、国を挙げての対策が検討されている。
英語圏・中国語圏に比べて、日本語のデータは少ない。特に、著作権等の問題のない法的にクリーンなデータの整備が重要であり、国を挙げてのデータ整備が必要となる。
「AI学習用データの大規模な整備」の問題は、国を挙げての対策が必要であり、データインカムの制度の導入を含め、質の高い日本語データの整備・拡充が極めて重要になると思われる。
4.人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針骨子 8頁4行目~6行目について
人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針骨子 8頁4行目~6行目
・様々な局面におけるAI導入の障壁を低減するため、AIを活用する際に想定・発生し得る課題に対して、その責任の所在等に関する解釈適用上の論点及び考え方を整理するとともに、判例等を踏まえ可能な限り解釈を明確化するよう努める。
上記記載へのコメント:
上記のように、様々な局面におけるAI導入の障壁を低減するため、法令の解釈の明確化は重要と思われる。
この点は、判例等の蓄積を待っていると、解釈が不明確な状態が続いてしまう。行政庁が、法的な拘束力のない「考え方」を示しても、法的な拘束力がないため、裁判所における解釈は明確にならない。法令の制定の時点から、解釈の余地が少ないように、文言を明確化することが望ましいと思われる。
また、様々な局面において、製造業者、開発業者、サービス提供業者、利用者など、人間が責任を負うこと自体が、AI導入の障壁となりうる。AIの自律性が高まっていくと、人間に責任を負わせるのは限界となり、新しい制度の整備が必要となる(AIの自律性と責任の問題)。
また、AIの違法行為の防止には、社会規範のデータを収集するデータインカムの制度を、国家戦略として導入することが必要となると思われる。
特に、「AIエージェント」のように、AIの自律的な動作が違法とならないようにすることが重要となる。そのためには、企業における法務部、知的財産部などが行なっているのと同様に、AI自身が出力のコンプライアンスチェックを行うことが重要となると思われる(コンプライアンスアーキテクチャ)。
5.人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針骨子 9頁17行目~18行目について
人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針骨子 9頁17行目~18行目
・AIの生成物(文章、画像、音声、動画等)は、社会的、法的に適切な形で利用する。
上記記載へのコメント:
国民が特に取り組むべき事項の一つとして、AIの生成物(文章、画像、音声、動画等)は、社会的、法的に適切な形で利用することが挙げられている。
しかし、国民が特に取り組むべき事項とされても、上記の記載は抽象的であり、判断が難しいのではないだろうか。
文化庁が法的拘束力のない考え方を示しているが、法的拘束力はなく、生成AIと著作権の問題を終局的に解決するものとはいえない。
AIの徹底した利活用には、生成AIと著作権の問題の終局的な解決が必要となると思われる。
著作権的にクリーンなデータ収集や、民主的に社会規範のデータ収集ができるデータインカムの制度を作り、生成AIの利用の萎縮効果を防止し、日本全体が安全にAI活用を推進できる環境を整えることが重要と思われる。
そのことにより、AI導入の障壁がなくなり、日本全体の生産性が爆発的に向上することが可能となる。これは、AIエージェントなど、AIの自律性が高まっていく時代に、必須の社会的なインフラとなると思われる。
6.まとめ
以上、部分的ではあるが、⼈⼯知能基本計画⾻⼦と人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針骨子の記載の一部について、特に知的財産の観点から暫定的なコメントをした。
AIの活用によるイノベーションには、AI発明の検討が重要となる。AI発明の問題は、特許法の改正だけではなく、民法など他の法律の改正も含めた検討が必要となりうる。
また、生成AIと著作権の問題の終局的解決には、文化庁だけではなく、著作権的にクリーンなデータ収集の制度など、日本全体での取り組みが必要となると思われる。
高度なAIの時代には、日本の法律を全体的に見直して改正する必要があると思われる。今後の超知能の時代には、日本全体の法制度の抜本的な再構成が必要になりうる(超知能の時代おける法制度)。
その際には、⼈⼯知能基本計画や知的財産基本計画など、国家レベルの戦略策定と、各省庁等の戦略策定が連携し、日本全体の法制度が超知能の時代に適したものになるようにする必要があると思われる。
⼈⼯知能基本計画について、今後の動向が注目される。
執筆者
法律部アソシエイト 弁護士
岡本 義則 おかもと よしのり
[業務分野]
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