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商標判例読解38 「エノテカ」審決取消請求事件

著者など    森下 梓 ユアサハラ法律特許事務所/商標判例研究会
業務分野 商標
出版日 平成28年5月19日
掲載誌・出版物 特許ニュースNo.14204
出版社 一般財団法人 経済産業調査会

概要

当事務所・商標判例研究会による連載「商標判例読解」の第38回

 

裁判所: 知的財産高等裁判所第3部

事件番号: 平成27年(行ケ)第10058号

事件名: 審決取消請求事件

判決日: 平成28年1月28日

関連条文: 商標法4条1項11号

 

第1 事件の概要

1.原告について

エノテカ株式会社(以下、「原告」という。)は、ワインの輸入販売業、レストラン業等を主要な事業目的とする株式会社であり、下記引用商標(登録第5136985号商標、登録第2357005号商標)の商標権者である。

エノテカ1

[1]

原告は、全国主要都市に少なくとも39の直営店舗を開店しており、全国で自社輸入ワインを卸販売し、自社サイト及び他社のショッピングモールにおいて販売を行っている。原告の店舗では、引用商標と同様の書体の「ENOTECA」の標章が使用されている。

 

2.被告について

エノテカイタリアーナ エス.アール.エル.(以下、「被告」という。)は、イタリアの会社であり、イタリア製のワインを販売し、少なくともイタリアの店舗及び被告会社のウェブサイトにおいて、以下の本件商標(商標登録第5614496号)を使用している。被告は、本件商標の商標権者である。

エノテカ2

[2]

 

3.特許庁における手続の経緯等

原告は、本件商標の商標登録無効審判を請求した。

特許庁は、上記請求を無効2014-890023号事件として審理を行い、平成27年2月9日、「本件商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法4条1項11号に該当するものとはいえ」ず、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。

原告は、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

 

[1]平成27年(行ケ)第10058号添付の別紙商標目録より引用した。
[2]平成27年(行ケ)第10058号添付の別紙商標目録より引用した。

 

第2 裁判所の判断

本判決は、大要以下の通り判断した。

1.本件商標の要部抽出の可否について

本件商標は、その構成全体から「エノテカイタリア-ナ」の称呼が自然に生じる。

本件商標は、外観上、「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分とを明瞭に区別して認識することができる。

「ENOTECA」又は「エノテカ」は、原告及び原告が行うワインの輸入販売、小売、卸売等の事業ないし営業を表示するものとして、日本国内において、取引者、需要者である一般消費者の間に、広く認識され、周知となっていた。そのため、本件商標の「Enoteca」の文字部分から、取引者、需要者において、原告の周知の営業表示としての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じる。

一方、本件商標の「Italiana」の文字部分からは、「イタリアの」という観念を生じる。

「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分は、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない。

本件商標の指定役務との関係においては、「italiana」の文字部分は、その役務の提供の場所、提供の用に供される物等がイタリアに関連することを示すものと認識されるにとどまる。そうすると、本件商標が「ワインの小売又は卸売の業務について行われる顧客に対する便益の提供」の役務及びワインに関連する役務に使用された場合には、「Enoteca」の文字部分は、取引者、需要者に対し、上記各役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ、独立して役務の出所識別標識として機能し得る。

本件商標から「Enoteca」の文字部分を要部として抽出し、これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許される。

 

2.結論

本件商標の要部である「Enoteca」の文字部分と引用商標は、外観が類似し、称呼及び観念が同一であることからすると、本件商標及び引用商標が本件商標の指定役務に使用された場合には、その役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものといえるから、本件商標と引用商標はそれぞれ全体として類似する。

本件商標は、引用商標に類似する商標であって、本件商標の指定役務は引用商標の指定役務又は指定商品と同一又は類似するから、本件商標は商標法4条1項11号に該当する。

 

第3 検討

本件審決は、被告商標(Enoteca Italiana)の周知性を評価し、原告標章(Enoteca)の周知性にもかかわらず、「Enoteca」部分の要部抽出を認めなかった。これに対し、本判決は、本稿で引用していないが、日本において被告商標は著名でないと評価して審決を取り消した。

本判決も引用する「つつみのおひなっこや事件(最判平成19年(行ヒ)第223号)」では、結合商標の要部観察が許される場合として、結合商標に含まれる2語のうち一方が強く支配的である場合、もしくは他方に識別力が無い場合が例示されている。

同事件の判示からは、要部観察はあくまで例外的処理であり、原則は一体的観察であることが示唆されているが、一方で、関連する他の2つの引用最高裁判例(リラ宝塚事件(最判昭37年(オ)第953号)、SEIKO EYE事件(最判平3年(行ツ)第103号))は、特に要部観察が例外的処理であることを強調したものではない。実務や多くの裁判例においても、要部観察は当然に選択肢の1つとして考えられている。

実務上の理解としては、結合商標のうち一方が周知であるか、他方に識別力が無い場合には、つつみのおひなっこや事件の論旨通り要部観察が可能であるが、結合商標全体に周知性がある場合には、その一部にさらに周知商標を含む場合であっても、要部認定は許されない可能性があると考えておけば足りる。「類似性の判断は事実認定の問題ではなく、どの程度の範囲まで登録商標に排他的な効力を認めるべきかという法的判断の問題であ」り(田村・商標法概説P121)、例えば既存ブランドの保護に傾く場合には、そのブランドを含む一部を要部と認定して類似性を肯定し、新規ブランドを排除することになる。この意味で、要部認定には保護性の有無という価値判断が常に包含されることを念頭に置く必要がある。

 

なお、記事の全文は「特許ニュース」No.14204(平成28年5月19日号)をご覧ください。

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