Nautilus最高裁判決以後の米国明確性判断基準 Biosig Instruments, Inc. v. Nautilus Inc. 2015年4月27日CAFC判決
業務分野:特許
カテゴリー:判例
著者など | 森下 梓 |
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業務分野 | 特許 |
出版日 | 平成27年10月14日 |
掲載誌・出版物 | 特許ニュース No.14063 |
出版社 | 一般財団法人 経済産業調査会 |
概要
第1.はじめに
昨年、米国最高裁は、特許の明確性判断基準について、これまでCAFCが用いてきた基準を変更して、「合理的確実性」という新基準を採用した。本稿は、最高裁判決を受けたCAFCが、新基準に基づいて改めてクレーム文言の不明確性について判断した判決を扱うものである。
第2.当事者
Biosig Instruments, Inc.(Biosig)は、心拍モニターの製造販売業者であり、米国特許第5,337,753号(’753特許)の特許権者である。Nautilus Inc.(Nautilus)は、フィットネスマシーンの販売業者である。
第3.本件特許
’753特許は心拍モニターに関するものであり、運動器具上に設置され、筋電図信号が実質的に取り除かれた心電図信号を処理することによって心拍を正確に測定することができる。
’753特許のクレーム1は以下の通りである。
- 運動器具及び/又は運動行為に関連してユーザーにより使用される心拍モニターであって、
伸長部材と、
第1の極性を有する第1入力端子及び第1の極性と反対の第2の極性を有する第2入力端子を有する差動アンプを含む電気回路とを備え、
前記伸長部材は第1部分と第2部分とを備え、
第1活性電極及び第1共通電極が互いに間隔をあけた関係で(in spaced relationship)前記第1部分に配置されており、
第2活性電極及び第2共通電極が互いに間隔をあけた関係で(in spaced relationship)前記第2部分に配置されており、
前記第1及び第2の共通電極は互いに、及び共通の電位点に接続されて・・・(以下省略)
第4.経緯
Biosigは、’753特許に基づき、Nautilusに対して特許権侵害訴訟を提起した。
Nautilusは、クレーム1に含まれる「間隔をあけた関係で」との記載が不明確であり、同特許は無効であると主張し、地裁はNautilusの主張を認めた。
控訴審であるCAFCは、明確性判断基準として、「クレーム解釈に耐えられないか、又は解決不能なほど不明瞭な場合」という基準を用い、クレームは明確であると判断した。
Nautilusが裁量上告を求めたところ、最高裁は、CAFCの上記基準を否定し、『合理的確実性』という新基準を示して、CAFCに差し戻した。
第5.合理的確実性の基準
最高裁は、「特許明細書及び出願経過に照らして、クレームが、『合理的確実性』を持って当業者に発明の範囲について情報を伝えていない場合、特許は不明確性により無効である」との基準を定立した。
第6.差戻後のCAFC判決
CAFCは「間隔をあけた関係」との記載について、明細書の記載と出願経過を検討し、差戻前CAFC判決の判示をそのまま引用して明確性を認めた。事実認定とその評価において、差戻しの前後で判示内容に変更はない。
第7.考察
Nautilus判決の新基準によってCAFCの明確性判断の水準が厳格化されたという理解は正しくない。
少なくともCAFCにおいては、明確性は従前どおり「クレーム・明細書・出願経過に照らして特許の内容が理解可能かどうか」に基づいて判断される。文言のみからその範囲が画定できないような用語をクレームに用いる際には、すべて明細書中で用語の定義・意義・範囲を規定しておくべきである。
なお、記事の全文は「特許ニュース」No.14063(平成27年10月14日号)をご覧ください。
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