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コメント配信システム事件(令和4年(ネ)第10046号 特許権侵害差止等請求控訴事件 原審(東京地方裁判所令和元年(ワ)第25152号))の知的財産高等裁判所の大合議判決について

I.判決の現時点での公開状況

本件は、コメント配信システム(特許番号:第6526304号)について判断をした知的財産高等裁判所の大合議判決である。

知的財産高等裁判所において、令和5年5月26日に判決が言い渡された。判決文はまだ公開されていないが、知的財産高等裁判所ウェブサイトにおいて判決要旨が公開されており、現在公開されている情報からの分析となる。

判決要旨によれば、特許権の侵害が認められている。

II.第三者意見募集制度の対象となった争点

本件については、2022年9月に、第三者意見募集制度により、第三者の意見の募集がなされている。その際の意見募集事項は、以下のとおりである。

1.サーバと複数の端末装置とを構成要素とする「システム」の発明において、当該サーバが日本国外で作り出され、存在する場合、発明の実施行為である「生産」(特許法2条3項1号)に該当し得ると考えるべきか。

2.1で「生産」に該当し得るとの考え方に立つ場合、該当するというためには、どのような要件が必要か 。

III. 判決要旨から見る上記の争点に対する判断

判決要旨によれば、1については生産に該当し得ると判断された。

2については、詳細は不明であるが、判決要旨によれば、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当とされている。

IV. 別件の知財高裁判決

令和4年7月20日知財高裁判決(平成30年(ネ)第10077号 特許権侵害差止等請求控訴事件)(原審・東京地方裁判所平成28年(ワ)第38565号)は、「提供」についての判断であるが、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、属地主義には反しないと解している。

そして、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である、とする。

V. 検討

特許法第2条の「生産」、「提供」には、「日本国内において」との文言はない。

上記別件の知財高裁判決は、「提供」について、実質的な判断をして、侵害を認めている。

今回の知財高裁判決によれば、「生産」についても、地裁判決の属地主義に反するという判断を覆し、実質的な判断をして、侵害を認めているものと考えられる。

属地主義の原則を硬直的に貫くのは、現在の情報社会の実情に合わず、属地主義の原則を厳格に適用しなかった知財高裁判決の結論は妥当と思われる。

そもそも、情報通信システム等に関する発明は、特許法の制定時に予定されていたものではない。情報通信システムは、構成要素がどこにあっても、日本に構成要素があるのと等価な場合があり、一定の要件の下で侵害を認めることは、属地主義の原則に反するものではないであろう。

まず、特許法の制定時に想定されていた、通常の製品について考える。通常の製品は、国境をまたぐものではない。たとえば、掃除機を考えると、ホースが極端に長い掃除機がある。しかし、いくらホースが長くとも、掃除機本体を日本に置き、ホースをアメリカまで延ばすということはありえない。また、通常の製品は物理法則に支配される(位置関係が意味を有する)ので、ホースの長さにより、技術的な効果が変わってくる。

しかし、情報通信システムにおいては、世界のどの部分に構成要素を配置してもよい。たとえば、どの国にサーバを置いてもよい。また、構成要素をどこに置いても、技術的な効果は、若干の通信遅延等はあるが、同等なことが多い。

世界には、特許権がエンフォースされていない地域は多数ある。特許制度がない地域や、主要な特許条約に加盟していない国もある。加盟国であっても、たとえば、人口が極端に小さな国などもあり、すべての国に国際出願をすることは現実的ではない。よって、すべての国や地域を特許でカバーすることはできない。

一方、情報通信システムにおいては、サーバ等の構成要素は、特許が取得されていない国や地域に置くことができる。よって、属地主義の原則を厳格に貫くと、特許制度の趣旨が没却されてしまうのである。

また、複数の国に構成要素が分かれる場合、構成要素だけで特許を取れるとは限らない。クレームの書き方ですべて解決できる問題ではないのである。もちろん、サーバ、クライアントモデルのように要素が2つだけとも限らない。そもそも、「システム」というものは、構成要素の単なる総和ではないから「システム」なのであり、構成要素だけで特許を取ることを強いることは誤りなのである。

本来は、世界特許の実現が望ましい。国同士で戦争などしている場合ではなく、世界の繁栄と人類の進歩のために、すべての国は世界特許の実現に動くべきであろう。しかし、人類のレベルは低く、世界特許は実現されていない。

このような状況の下では、属地主義の原則を厳格に貫くのではなく、情報通信システム等に関する発明については、現代の社会の実情に合わせて、実効的な保護行なうようにすべきであろう。

執筆者

法律部アソシエイト 弁護士

岡本 義則 おかもと よしのり

[業務分野]

企業法務 国際法務 知財一般 特許 意匠

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