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食品分野のパラメータ発明に関してサポート要件が否定された事案 -平成28年(行ケ)第10147号審決取消請求事件-

一宮 維幸 弁理士
国内特許情報委員会

本事案は、特許第5189667号に係る無効2015-800008号事件について特許庁がした審決(請求不成立)に対する取消訴訟である。特許庁は、特許請求の範囲の訂正を認めた上で請求は成り立たないと判断したが、知財高裁は、訂正後の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないとして審決を取り消した。特許権者による上告受理申立は最高裁により却下され、本判決は確定した。

本事案により、パラメータ発明に関して、特許請求の範囲に記載されたパラメータと得られる効果との関係の技術的な意味が当業者に理解されるように明細書を作成することの必要性が、改めて確認された。特に、明細書作成時には、発明の効果に影響を与え得る他の要素の有無を確認し、必要であればさらに比較実験を行うことなどを検討すべきである。

また食品分野の発明に関して、発明の効果を官能試験により評価する場合には、評価基準を明細書中に明確に記載しておくべきである。さらに、複数のパラメータに基づいて発明の効果を評価する場合には、評価方法が合理的であることを当業者が理解できるように明細書を記載すべきである。

1.事件の概要

平成25年2月1日 設定登録:特許第5189667号(特許権者:株式会社伊藤園)
平成27年1月9日 無効審判請求:無効2015-800008号(請求人:カゴメ株式会社)

無効理由1(実施可能要件)
無効理由2(サポート要件)
無効理由3(公然実施による新規性喪失)
無効理由4(刊行物公知による新規性喪失等)
無効理由5(進歩性欠如)

平成28年1月5日 訂正請求
平成28年5月19日 審決:訂正を認める、請求は成り立たない。
平成28年6月24日 出訴:平成28年(行ケ)第10147号

原告:カゴメ
被告:伊藤園
取消事由1(訂正要件適合性判断の誤り)
取消事由2(実施可能要件適合性判断の誤り)
取消事由3(サポート要件適合性判断の誤り)
取消事由4(公然実施による新規性喪失に関する認定及び判断の誤り)
取消事由5(刊行物に基づく進歩性欠如の判断の誤り)

平成29年6月8日 判決:訂正要件に適合する、サポート要件に適合しない。
平成30年6月27日(処分日):上告受理申立却下

2.訂正後の本件発明(独立項のみ。下線は訂正された箇所を示す。)

【請求項1】
糖度が9.4~10.0であり,糖酸比が19.0~30.0であり,グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が,0.36~0.42重量%であることを特徴とする,トマト含有飲料。

【請求項8】
少なくともトマトペースト(A)と透明トマト汁(B)を配合することにより,糖度が9.4~10.0及び糖酸比が19.0~30.0となるように,並びに,グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が0.36~0.42重量%となるように,前記糖度及び前記糖酸比並びに前記グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量を調整することを特徴とする,
トマト含有飲料の製造方法。

【請求項11】
少なくともトマトペースト(A)と透明トマト汁(B)を配合することにより,糖度が9.4~10.0及び糖酸比が19.0~30.0となるように,並びに,グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が0.36~0.42重量%となるように,前記糖度及び前記糖酸比並びに前記グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量を調整することを特徴とする,
トマト含有飲料の酸味抑制方法。

3.裁判所の判断

 (1)取消事由1について

裁判所は、以下のように指摘し、取消事由1は理由がないと判断した。

・訂正後の数値範囲は、訂正前の数値範囲を狭めるものである。

・訂正後の数値範囲の上限および下限は、実施例において具体的に示されている。

・原告は、訂正後の数値範囲において本件発明の効果があるとは読み取れない、酸度の数値範囲は広く、実施例1~3と同様の風味が実現されているとは考え難いと主張するが、これらの事項は、特許請求の範囲の記載要件において問題とされるべきものである。

・原告は、本件明細書には、訂正後の数値範囲の組合せは記載されていない等と主張するが、訂正後の数値範囲の最小値および最大値は実施例において具体的にしめされたものであるから、訂正後の数値範囲は、発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内であり、新規な技術的事項を導入するものとはいえない。

 (2)取消事由3について

裁判所は、「偏光フィルム製造方法事件」(知財高裁平成17年11月11日判決,平成17年(行ケ)第10042号)において示された考え方を示した上で、以下のように指摘し、本件発明に係る特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しないと判断した。

・本件発明は、いわゆるパラメータ発明に関するものであり、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は,その変数が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該変数が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である。

・実施例には、トマト含有飲料の「甘み」、「酸味」及び「濃厚」という風味の評価試験をしたことが記載されている。糖度,糖酸比及びグルタミン酸等含有量を変化させて,これら三つの要素の数値範囲と風味との関連を測定するに当たっては,少なくとも,①「甘み」,「酸味」及び「濃厚」の風味に見るべき影響を与えるのが,これら三つの要素のみである場合や,影響を与える要素はあるが,その条件をそろえる必要がない場合には,そのことを技術的に説明した上で上記三要素を変化させて風味評価試験をするか,②「甘み」,「酸味」及び「濃厚」の風味に見るべき影響を与える要素は上記三つ以外にも存在し,その条件をそろえる必要がないとはいえない場合には,当該他の要素を一定にした上で上記三要素の含有量を変化させて風味評価試験をするという方法がとられるべきである。しかし、本件明細書にはいずれの記載もない。

・パネラーによる風味の評価試験の方法について、「甘み」、「酸味」又は「濃厚」という風味を1点上げるにはどの程度その風味が強くなればよいのかをパネラー間で共通にするなどの手順が踏まれたことも、各パネラーの個別の評点も記載されておらず、各風味についての全パネラーの評点の平均を単純に足し合わせて総合評価する方法が合理的であったと当業者が推認することはできない

以上

執筆者

特許部化学班アソシエイト 弁理士

一宮 維幸 いちのみや まさゆき

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