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投与量に特徴がある医薬用途発明について被告製品を非侵害と判断した事案 -平成26年(ワ)第25013号 特許権侵害差止等請求事件- -平成28年(ネ)第10023号 特許権侵害差止等請求事件-

国内特許情報委員会
寺地拓己 弁理士

本事案は、イソソルビトールの経口投与量が成人1日あたり0.15~0.75g/kg体重であることを特徴とするメニエール病治療薬に関する特許について、1日1.5~2.0mL/kg体重を標準用量として記載し、「症状により適宜増減する。」と添付文書に記載したメニエール病治療薬の製造販売が特許権を侵害するかについて争われた事案である。第1審では、本件特許明細書の記載から特許発明を限定的に解釈し、個々の患者の特徴や病態の変化に応じて医師の判断により投与量が削減された場合には特許の投与量に該当するとしても本件発明の技術的範囲に属しないとして、非侵害との判断がされた。第2審では、被控訴人の実施が本件特許発明である用途発明の実施に該当しないとして、特許発明の技術的範囲の解釈に言及することなく、第1審の結論を維持した。

医薬用途発明、特に投与量に特徴のある発明の技術的範囲について判断がされた例は少なく、本件は医薬用途発明の技術的範囲の解釈において参考にすべき事案である。

(1)本件特許

本件特許は、特許第4778108号(発明の名称:メニエール病治療薬、優先権主張日:平成20年3月21日、登録日:平成23年7月8日)であり、請求項1の記載は以下の通りである(以下、下線部を構成要件Aと称する)。
【請求項1】
成人1日あたり0.15~0.75g/kg体重のイソソルビトールを経口投与されるように用いられる(ただし,イソソルビトールに対し1~30質量%の多糖類を,併せて経口投与する場合を除く)ことを特徴とする,イソソルビトールを含有するメニエール病治療薬。

(2)被告(被控訴人)製品

被告らは,メニエール病改善剤(メニエール病治療薬)としての機能を有する薬剤として,昭和43年6月1日から被告製品1を,平成20年7月1日から被告製品2を,平成22年3月19日から被告製品3をそれぞれ製造販売している。被告製品の添付文書及びインタビューフォームにおけるメニエール病についての用法用量の記載は,「1日体重当り1.5~2.0mL/kgを標準用量とし,通常成人1日量90~120mLを毎食後3回に分けて経口投与する。症状により適宜増減する。」というものである。

(3)第1審(東京地裁)における判断

本事案の第1審における争点は、(ア)被告製品における構成要件Aの充足性(なお,被告らはその余の構成要件の充足性を争っていない。)、(イ)本件特許についての無効理由の有無、(ウ)損害額であった。本事案では(ア)についてのみ判断がされた。

第1審の判決では特許明細書の以下の記載が引用されている:
「薬剤の投与量は,個人差,病状の重篤度などに合わせて適宜調節されなくてはならず,投与量を削減しても,同等又は同等以上の効果が得られることは臨床で頻繁に遭遇することである。しかし,本発明で投与量を削減する意味は,そのようないわゆる「医師のさじ加減」とは異なる。」(段落【0032】)。

裁判所は判決において、本件明細書の記載によれば,本件発明は,従来のイソソルビトール製剤の投与量が過大であり,そのために種々の問題が生じるところ,その投与量を構成要件Aに記載の0.15~0.75g/kg体重という範囲にまで削減することによって上記の問題を解消したというものであり、そうすると,本件発明の治療薬は,構成要件A記載の範囲を超える量のイソソルビトールを投与する用法を排除し,従来より少ない量を投与するように用いられる治療薬に限定されるということができる、と述べ、特許発明に技術的範囲について裁判所は、上記範囲を超える量のイソソルビトールを投与するように用いられる治療薬は,「医師のさじ加減」として、個々の患者の特徴や病態の変化に応じて医師の判断により投与量が削減された場合には構成要件Aに記載された量で用いられ得るものであっても,本件発明の技術的範囲に属しないと解すべきである、と判断した。

その上で、裁判所は、添付文書等の「症状により適宜増減する」との記載について、「ここにいう適宜増減とは,投与開始時の患者の病状やその後の変化を踏まえ,医師の判断により投与量を増減させることをいうと解されるから,適宜増減の結果イソソルビトールの投与量が構成要件A所定の範囲に含まれる場合があるとしても,これをもって被告製品が本件発明の技術的範囲に属するということはできない。」と判断した。

(4)第2審(知財高裁)における判断

第2審において、裁判所は用途発明およびその実施を以下のように定義した:
「用途発明とは,既知の物質について未知の性質を発見し,当該性質に基づき顕著な効果を有する新規な用途を創作したことを特徴とするものであるから,用途発明における特許法2条3項にいう「実施」とは,新規な用途に使用するために既知の物質を生産,使用,譲渡等をする行為に限られると解するのが相当である。」

本件特許発明について裁判所は「本件発明は,作用発現までに長時間要するという従来のメニエール病治療薬の課題を解決するために,既知の物質であるイソソルビトールの1日当たりの用量を従来の「1.05~1.4g/kg体重」から,構成要件Aにいう「0.15~0.75g/kg体重」という範囲に減少させることによって,血漿AVPの発生を防ぐなどして迅速な作用を発現させるとともに,長期投与に適したメニエール病治療薬を提供するというものである。」と述べた。そして裁判所は「被告製品の添付文書及びインタビューフォームにおける用法用量は,1日体重当り1.5~2.0mL/kgを標準用量とするものであって,かえって,本件明細書にいう従来のイソソルビトール製剤の用量をも超えるものであるから,構成要件Aによって規定された上記用途を明らかに超えるものと認められる。」、および「そのほかに被告製品の製造販売が当該用途に使用するために行われたことを認めるに足りる証拠もない。」と認定し、「控訴人の請求は理由がなく,控訴人の請求を棄却した原判決は相当である」と判断した。

執筆者

特許部化学班 サブチーフパートナー 弁理士

寺地 拓己 てらち たくみ

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