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静脈内投与に要する時間に特徴を有する医薬発明の進歩性を認めた事案 -平成26年(行ケ)第10045号 審決取消請求事件-

国内特許情報委員会
寺地拓己 弁理士

本事案では、静脈内投与に要する時間を発明特定事項とする医薬発明において特許庁から拒絶審決を受け、審決を不服として知財高裁に提起した審決取消訴訟において審決が取り消された。知財高裁は、引用文献の記載からは本件発明により解決される技術的課題である腎臓に対する安全性の改善を当業者が認識することができず、引用文献の記載には当該投与時間を設定する当業者の動機付けが存在しないとして、原告の主張する取消事由を認める判断をした(平成26年12月26日判決言い渡し)。

(1)本件出願

本件出願は特願2001-585739号(発明の名称:骨代謝疾患の処置のための医薬の製造のための,ゾレドロネートの使用、出願日:平成13年5月9日(優先権主張日:平成12年5月19日))であり、拒絶審決を受けた際の係属クレームの請求項1は以下のとおりである。
【請求項1】
2-(イミダゾル-1-イル)-1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(ゾレドロン酸)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む処置剤であって,ビスホスホネート処置を必要とする患者に4mgのゾレドロン酸を15分間かけて静脈内投与することを特徴とする処置剤。

(2)特許庁における審決

審決では以下の3文献に基づいて進歩性が否定された。

ア 引用例1:「Cancer Investigation, Jan 2000, vol.18, no.suppl. 1, p.68-69
(邦題:「多発性骨髄腫及び乳癌におけるゾレドロン酸対パミドロン酸の第II相試験」)」
イ 引用例2:「Cancer, 1997, vol.80, no.8 suppl., p.1699-1701」
ウ 引用例3:「Endocrine Reviews, 1998, vol.19, no.1, p.80-100」

審決では、引用例1に記載の発明では静脈内投与時間が「5分間」であるのに対し,本願発明では「15分間」である点を唯一の相違点と認定し、進歩性について以下のように判断した。

引用例1は,ゾレドロン酸の第Ⅱ相試験に関する文献であり,該試験の結果,一定の効果を有するものとされたことが記載され,第Ⅲ相試験へ進んでいることも記載されているから,第Ⅲ相試験において,第Ⅱ相試験では出なかった副作用が出ることはあり得るし,それを避けるべく,用法・用量を設定することは当業者が通常行うことであるとの前提に立った上で,引用例3には,ビスホスホネートの静脈内投与においては,急速な点滴が腎不全を招くので,大量の液体でゆっくりと点滴することが好ましい旨の記載があり,また引用例2にはゾレドロン酸が5-30分の点滴で投与され,20分の点滴で血清カルシウムレベルの低下効果があったことが記載されていることから,引用例1ないし3を併せ見た当業者であれば,引用発明の5分間という点滴の時間をゆっくりとしたものにするに当たり,15分間という時間に到達することは,実験的に適宜なし得たことである。

(3)原告の主張

原告は審決取消事由として以下の点を指摘した。

①引用文献2の審決での引用箇所は要約に記載されており、引用例2の本文の記載からは4及び8mgの投与量について20分間の投与は行われていないことが明らかである。

②引用例1では4mgのゾレドロン酸の5分間静脈内投与(第II相臨床試験)の結果が、引用例2では最大投与量8mgの5分間静脈内投与(第I相臨床試験)の結果がそれぞれ記載されているが、腎臓に対する毒性が見られなかったことが記載されているから,これらの文献の記載から腎臓に対する安全性の改善という課題の存在を認識すること自体が困難であった。

③引用例3は,第1世代のビスホスホネートに関するものであり,活性の格段に高い第三世代のビスホスホネートであるゾレドロン酸には引用例3の記載は当てはまらないことが明らかであることから,引用例1及び2に記載の発明は,本願発明の課題を何ら示唆するものでなく,これらを組み合わせても,本願発明の課題を把握することは困難であり,その解決手段たる本願発明に容易に到達することはできず,引用例1ないし3を組み合わせる動機付けは見当たらない。

(4)裁判所の判断

裁判所は原告の主張を認め、以下のように判断した。

ゾレドロン酸の急速投与については,腎臓に対する安全性が課題の一つとされ,引用例2の第Ⅰ相臨床試験でも,その点の確認が行われ,第Ⅱ相試験(引用例1)を経た上で,さらにはそれに引き続く第Ⅲ相臨床試験において,腎臓に対する安全性の関係で異なる結果が生じることも可能性としては存在したが,引用例1及び2の第Ⅰ相臨床試験,第Ⅱ相臨床試験では,4mg5分間投与で腎臓に対する安全性に疑問を呈する結果は確認されていないこと,引用例3の記載も本願優先日当時,第三世代のビスホスホネートであるゾレドロン酸に直ちに当てはまるものではないと理解されることからすると,引用例1及び2において安全性が一応確認されたゾレドロン酸4mgの5分間投与という投与時間を更に延長し,これを15分間とする動機付けがあると認めることはできない。

執筆者

特許部化学班 サブチーフパートナー 弁理士

寺地 拓己 てらち たくみ

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