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EPO: EPC2000の発効(2)

中濱 明子弁理士

欧州特許条約の大幅な改正条約である EPC2000が2007年 12月 13日に発効した。EPC2000は、本則(Convention)、施行規則(Implementing Regulations)、付属する議定書(Protocol)等から構成される。原則として、改正条約発効後(新加盟のノルウェーとクロアチアについては 2008年 1月 1日以降)の欧州特許出願並びにそのような出願に付与された特許に適用されるが、経過措置により発効時に係属中の出願や付与済みの特許に遡及的に適用される条項も多くある。

手続的な規定の多くが 2006年末に発表された改正新施行規則に移行しており、施行規則は条文番号の変更を伴う改正が行われている[EPC2000の Annexに、条文番号の新旧対照表(Cross-reference index)が付いている]。

実務的に重要と思われる本則及び施行規則の改正内容については、前回の記事「EPC2000の発効」を参照されたい(14条[出願等の言語]、54条(3)[未公開先願による後願排除権]、54条(5)[第二医薬用途発明の新規性(医薬品のクレーム記載)]、87, 88条[優先権]、105a~ 105c条[限定手続(特許付与後補正又は訂正)]、121条[手続の続行(Further processing)])。本稿では経過措置及び前回言及しなかったいくつかの規定について説明する。

1.経過措置
(1) EPC2000発効時に出願係属中のもの及び既に付与済みの特許に遡及適用される条項は次の通りである。EPC14条(3)~(6)[書類等の言語]、51条[手数料]、52条[特許対象の発明]、53条[特許性の例外]、54条(3)と(4)[新規性]、61条[無権利者による出願]、67条[出願公開による権利]、68条[特許の取消・無効・減縮補正の効果]、69条[保護の範囲]とその解釈に関する議定書、70条[明細書等の真正の文言]、86条[更新手数料]、88条[優先権主張]、90条[出願時の審査及び方式要件の審査]、92条[サーチレポート]、93条[出願の公開]、94条[出願の審査]、97条[特許又は拒絶の査定]、98条[特許公告]、106条[審判の請求]、108条[審判請求の方式及び期限]、110条[審判の審理]、115条[第三者意見]、117条[証拠]、119条[通知]、120条[期限]、123条[補正又は訂正]、124条[先行技術情報提出の指令]、127条[European Patent Register]、128条[書類閲覧]、129条[定期出版物]、133条[代理]、135条[各国特許出願への変更]、137条[変更の方式的要件]、141条[維持(登録)手数料]。但し 54条(4)[既知物質又は組成物の医薬用途発明の新規性]については、発効以前から適用されていた場合は旧版の規定の適用を続ける。

(2) EPC2000発効時に付与済みの特許又は係属中であった出願に付与される特許に遡及適用される条項は次の通りである。EPC65条[欧州特許の翻訳]、99条[特許異議の申立て]、101条[異議申立ての審理、取消又は維持]、103条[維持決定後の特許公報]、104条[費用の負担]、105条[侵害者とされた者の参加]、105a~ c条[限定手続]、138条[各国での特許取消又は無効]。

(3) EPC2000の新 54条(5)[第二医薬用途発明の新規性]は、EPC2000発効時に係属中の出願であって特許前のものに遡及適用される。

(4) EPC112a条[拡大審判部による再審理の申請]は、EPC2000発効日以降の審決に適用される。

(5) EPC121条[手続の続行]と 122条[権利の回復]は、EPC2000発効時に出願係属中のもの及び既に付与済みの特許であって、手続の続行又は権利の回復を請求するための期限が終了していないものに遡及適用される。

(6) EPC150~ 153条[PCT出願、受理官庁としてのEPO、ISA及び IPEAとしてのEPO、指定/選択官庁としてのEPO]は、EPC2000発効時に係属中の国際出願に適用される。但し、旧版の 154条(3)[ISAとしての EPOの決定に対する不服申立についての規定、EPC2000では削除]及び 155条(3)[IPERとしての EPOの決定についての不服申立についての規定、EPC2000では削除]については、以前の規定の適用を続ける。

2.改正内容(前回の記事「EPC2000の発効」で紹介していないものについて)
(1) 締約国のみなし全指定及び出願日認定要件の緩和
(援用による出願)
今回の改正条約及び施行規則の発効により、締約国の指定手続が変更され、同時に欧州特許出願の出願日を確保するための要件が緩和された。従来は、出願時に少なくとも一つの締約国を指定することが出願日確保の最低要件の一つであり且つ出願後の指定国の追加が認められていなかったが、EPC79条の改正により、出願時に全締約国が指定されたものとみなされることになった(79条(1))。また、旧 80条で規定されていた出願日認定のための具体的要件は新施行規則 40条に移行され、(a)欧州特許が求められる旨の表示、(b)出願人を同定または出願人との連絡を可能とする情報、及び(c)詳細説明または先行出願へのレファレンス(a description or reference to a previously filed application)を含む書類が提出された日が欧州特許出願日となる(すなわち、旧EPC80条で要求されていた「少なくとも 1の締約国の指定」が削除され、出願時明細書等の内容について「…詳細説明及び 1又は 2以上のクレーム」の代わりに「詳細説明または先行出願へのレファレンス」に変更された)。従って、締約国の指定が出願日認定のための必須要件でなくなり、詳細説明及びクレームを含む実体的な明細書に代えて任意の言語の先行出願のレファレンス(援用)により出願日の確保が可能である。レファレンス(援用)による出願の場合、基礎となる先行出願の出願番号等の書誌情報の提出のみで出願できる(新規則40条(2))が、出願から 2ヶ月以内に基礎出願の写しを提出し、EPOの公用語でない場合は同様に 2ヶ月以内に翻訳の提出が必要である(規則 40条(3))。これらの 2ヶ月の各期間を徒過した場合はいずれもさらに2ヶ月以内に提出することを求める指令が出される。日本語の先行出願へのレファレンスで、優先日間近の緊急対応も可能になると思われる。

(2)先行技術情報の提出指令
EPC124条の改正により、EPOは「欧州特許出願に係る発明に関して国内特許手続又は広域特許手続において考慮された先行技術情報」を「施行規則に従って」提出するよう求めることができるようになった。この指令の応答期間を EPOが指定することができる旨が新規則141条に定められている。そして、応答が所定期間内になければ、出願がみなし取下げとなる(条約 124条(2))。旧条約 124条(1)では、対応出願の出願国と出願番号の提示を求められる場合のみ規定されていたが、改正後は、対応出願のサーチ結果その他の先行技術についての資料の提出を要請される場合があることになった。本規定は、EPC2000発効時に係属中の欧州特許出願に遡及適用される。

(3) 新条約 69条に関する議定書(「均等」についての考慮)
EPC69条は欧州特許又は欧州特許出願により与えられる保護の範囲を規定する条項であるが、新条約 69条の解釈に関する議定書(Protocol on the Interpretation of Article 69EPC)に、「欧州特許によって付与された保護の範囲を定めるために、請求項に記載された要件と均等である全ての要件について妥当な考慮がなされるべきである」旨を規定する新 2条が追加された。本議定書は、EPC2000発効時に出願係属中及び既に付与されている特許に遡及適用される。

執筆者

特許部化学班パートナー 弁理士

中濱 明子 なかはま あきこ

[業務分野]

特許

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