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平成25年独占禁止法改正(審判制度の廃止等)の概要

企業法務ニュース第57号 2014年7月17日

弁護士 神田 雄

 

1 はじめに

平成25年の第185回臨時国会において、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」が可決成立した。改正後の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律は、平成25年12月13日に公布され、公布日から1年6か月を超えない範囲内で施行される。

本改正は、平成22年通常国会に法案が提出されたが、可決成立が遅れ、平成25年臨時国会に至ったものである。

その主な内容は、①審判制度の廃止、②排除措置命令等に係る訴訟手続の整備、③公正取引委員会(以下「公取委」という。)による処分前の意見聴取手続や証拠の閲覧・謄写手続の整備である。②は、廃止される審判制度に代わる不服申立手続となる訴訟手続に関わる法改正である。③は、排除措置命令等の処分後の手続である審判制度が廃止されることに伴い、処分前の公取委における手続を充実化させるための改正である。このように、②も③も、①の審判制度の廃止を受けての所要の改正と捉えることができる。

 

2 審判制度の廃止

現行法では、公取委の排除措置命令や課徴金納付命令に不服がある者は、公取委に対し、審判を請求することにより、不服を申し立てることができる。

しかし、この審判制度には、不服審査手続において、公取委が当事者である検察官と判断者である裁判所の立場を兼ねているとの批判があった。

そこで、この審判制度は廃止されることとなった。

 

3 排除措置命令等に係る訴訟手続の整備

審判制度に代わる不服申立ては、裁判所における抗告訴訟となる。改正法において、次の内容が定められた。

(1)管轄

独占禁止法違反事件は、複雑専門的な経済事案を対象とすることから、管轄を東京地裁に専属させた(改正法85条)。

(2)裁判合議体

裁判所における慎重な審理を確保するために、東京地裁の第一審においては、3人の裁判官の合議体により審理及び裁判を行うこととされ(必要的合議体)、5人の裁判官の合議体により審理及び裁判を行うこともできることとされた(改正法86条)。5人の合議体で審理及び裁判を行うかどうかは、事件ごとに当該合議体において判断される。

また、この東京地裁における抗告訴訟の控訴審となる東京高裁においては、5人の裁判官の合議体により審理裁判を行うことができるとされた(改正法87条)。

(3)審理の特則の廃止

現行法における実質的証拠法則(注1)(現行法80条)、新証拠提出期限(注2)(現行法81条)は、公取委において審判が行われることを前提とした規定であったため、廃止された。

注1  公取委の認定した事実は、これを立証する実質的な証拠があるときには、裁判所を拘束する。実質的な証拠の有無は、裁判所が判断する。

注2  公取委が認定した事実に関する証拠を訴訟において提出するためには、公取委が正当な理由なく当該証拠を採用しなかった場合や、公取委の審判において重大な過失なくして当該証拠を提出できなかった場合に限る。

 

4 公取委による意見聴取手続等の整備

現行法においては、ある事件における公取委の最終的な判断は、審判の審決において示される仕組みとなっていた。これに対し、改正法においては、審判手続が廃止されたため、公取委の最終的な判断は排除措置命令等において示されることになる。この点にかんがみ、現行の排除措置命令等に係る処分前手続の充実を図る観点から、意見聴取手続を整備するとともに、証拠の閲覧・謄写に係る規定(5において後述)が設けられた。趣旨に関して、より具体的には、丁寧な手続、透明性を確保、デュープロセスをさらにしっかり踏む、適正な手続、処分前に相手方事業者の主張を一層よく聞いた上で適切に処分を行う、といった説明が国会審議の過程等で公取委からなされている。

なお、改正法における意見聴取手続の規定、証拠の閲覧・謄写に係る規定は、課徴金納付命令及び独占的状態に係る競争回復措置命令について準用される(改正法62条2項、64条4項)。

(1)手続の主宰者等

現行法における処分前手続として、公取委が排除措置命令をしようとするときは、当該命令の名宛人となるべき者に対し、予定される排除措置命令の内容、公取委の認定した事実及びこれに対する法令の適用等を書面により通知した上で、あらかじめ意見を述べ、証拠を提出する機会を付与することとされている(現行法49条3項及び5項)。現行法における処分前手続は、審査官と事業者の二面構造で行われる。

改正法においては、審査官とは別に意見聴取手続の主宰者(注3)を置き、事業者からの意見聴取手続を主宰させることとした(改正法49条及び53条)。なお、当該事件において審査官の職務を行ったことのある職員その他調査に関する事務に従事したことのある職員を手続の主宰者にすることはできない(改正法53条2項)。

当事者は意見聴取手続にあたり代理人の選任をすることができる(改正法51条)。

注3  公取委作成の資料等において、意見聴取手続の主宰者は「手続管理官」と仮称されていることがある。

(2)意見聴取の期日

意見聴取手続においては、期日を設け、当事者から口頭で直接意見聴取することが原則とされる。

意見聴取の最初の期日では、事件を担当した審査官が、予定される排除措置命令等の内容、公取委の認定した事実及び立証に用いた証拠のうち主要な証拠、法令の適用を当事者に対して説明する(改正法54条1項)。

当事者は、意見聴取の期日に出頭して、意見を述べ、証拠を提出し、手続管理者の許可を得て審査官に対して質問をすることができる(改正法54条2項)。当事者は、陳述書及び証拠を提出することにより、意見聴取の期日への出頭に代えることができる(改正法55条)。

手続の主宰者は、意見聴取の期日において必要があると認めるときは、当事者に対して質問をし、意見の陳述、証拠の提出を促すとともに、審査官に対して説明を求めることができる(改正法54条3項)。

(3)手続の主宰者の調書及び報告書

手続の主宰者は、意見聴取の期日における当事者の意見陳述等の経過を記載した調書、当該事件の論点を整理して記載した報告書を作成し、公取委に提出する(改正法58条)。調書は、手続の主宰者の評価を含まないものとされる。これに対し、報告書は、当事者の意見陳述の内容、意見聴取の期日における審査官の説明及び当事者と審査官との質疑応答を踏まえた上で、委員会の判断の参考に資するよう、当該事案の論点を整理して記載するものとされる。

公取委は、排除措置命令等に係る議決をするときは、手続の主宰者から提出された調書及び報告書を十分参酌してしなければならない(改正法60条)。

(4)意見聴取手続の期間

意見聴取手続の期間については、改正法上何も定めはない。ただし、本法案の国会審議おける以下の答弁によれば、公取委は、従前の事前審判制度よりも短期間となることを見込んでいるようである。

「この手続にかかる時間的経過につきましても、以前の事前審判制度のような、ある程度の期間を要するということにはならない、期間的にももっと短期間のもので済むのではないかと思っております。本手続におきましては、予定される排除措置命令に対する当事者の意見を十分に聞くこととしておりますので、その点には配慮する必要があると思いますが、いたずらに長くならないように、適切な手続を主宰することが重要であると考えているところでございます。」(平成25年
11月20日衆議院経済産業委員会における杉本和行公正取引委員会委員長答弁)

 

5 証拠の閲覧・謄写

現行法の処分前手続においては、証拠の閲覧又は謄写に関する規定は法令上存在しない。

これに対し、改正法における意見聴取手続においては、公取委が認定した事実を立証する証拠の閲覧及び謄写に係る規定が設けられた。これは、処分前手続のさらなる充実を図る観点からと説明されている。

具体的には、改正法52条は次のように定める。当事者は、意見聴取の通知を受けた時から意見聴取が終結するまでの間、公取委が認定した事実を立証する証拠の閲覧又は謄写を求めることができる。公取委は、第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ、その閲覧又は謄写を拒むことはできない。ただし、謄写については、その対象は、当該当事者若しくはその従業員が提出した証拠又は当該当事者の従業員の供述を録取した調書に限られる。

閲覧又は謄写を拒むことができる「第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるとき」としては、例えば、当事者である会社の従業員個人のプライバシーに係る事項などについて閲覧又は謄写を拒むことができると説明されている。

また、謄写を自社証拠に限ったのは、独占禁止法違反事件の場合、証拠の中には事業者の秘密等も含まれている可能性が高く、謄写の対象範囲について慎重を期する必要があるためと説明されている。

 

6 経過措置

現行法の手続を適用するか改正法の手続を適用するかは、改正法の施行日時点において、現行法に基づく排除措置命令等に係る処分前手続が開始されているか否か、すなわち現行法49条5項の規定に基づく事前通知があったか否かが基準とされる(附則2条)。

 

7 コメント

公取委による事後審査としての審判は廃止され、不服申立ては裁判所の抗告訴訟に委ねられることとなった。その訴訟手続に関しては、東京地裁に管轄を集中させ、通常訴訟よりも多数の裁判官に担当させることを可能にするなど、独占禁止法違反事件の専門性に対応するための措置を講じたようだが、今回の改正法上は、これ以上の特別な手当てをする規定は見られない。

今回の改正法の重点は、処分前手続の充実化にもあるのであろう。公取委の観点からは、審判という事後審査がなくなったため、処分を出す前の手続を重くして慎重を期し適正な判断をしたいという趣旨と推測される。一方、当事者の観点からは、公取委による処分の前に効果的な防御をして処分自体を回避するために、処分前の手続における手続保障や情報開示の充実に期待をしたいところである。

もっとも、今回新設された意見聴取手続の主宰者が、実際上どのような姿勢で意見聴取手続に臨み、手続面だけでなく実体面にもどのような影響を及ぼすのかは、今後の運用を見なければ分からないところがあり、事業者がどの程度の期待を持つことができるのか、いまだ未知数である。改正法では、前述のとおり意見聴取手続の主宰者の報告書を「十分に参酌」することが求められたのみであり、少なくとも公取委がこれに拘束されるとの定めではない。意見聴取手続の主宰者は、公取委の職員が指定され、審判官経験者又は審判官相当のキャリアを有する職員が中心となって指定されるのではないかとも推測される。なお、衆議院における附帯決議では、「政府及び最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の諸点について格段の配慮をすべきである。」とした上、第3項として、「排除措置命令等に係る意見聴取手続を主宰することとなるいわゆる手続管理官については、手続の透明性、信頼性を確保する観点から、その権限・義務を明確化するとともに、その指定に当たっては中立性を確保するよう努めること。」とされている。

また、証拠の閲覧・謄写が可能になったといっても、対象が「公正取引委員会の認定した事実を立証する証拠」であり、かつ謄写できるのは自社証拠に限られる点から、その効果はいまだ限定的と思われる。

 

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