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タイ投資セミナー2015のご報告

企業法務ニュース第62号 2015年3月

弁護士 木村 剛大

2015年2月24日、バンコクの法律事務所Seri Manop & Doyle(http://www.serimanop.com/)よりタイで19年間にわたり実務を行っておられるマイケル・ドイル弁護士を講師としてお招きし、弊所におきましてタイ投資セミナー2015を開催いたしました。小職もモデレーターとして本セミナーに参加しましたので、本稿ではセミナー概要についてご報告します。

本セミナーは2つのパートに分けて行われ、①「外国人事業法及び投資委員会による優遇措置の改正案」、②「労働問題及び一般的な投資シナリオ」と題して行われました。

目次

1.「外国人事業法及び投資委員会による優遇措置の改正案」
⑴ タイの政治情勢
⑵ 外国人事業法
⑶ 投資委員会(Board of Investment、「BOI」)
2.「労働問題及び一般的な投資シナリオ」
⑴ 労働問題
a.解雇
b.労働組合
⑵ 一般的な投資シナリオ
a.駐在員事務所
b.サービス会社
c.販売会社
d.工場
3. おわりに


1. 「外国人事業法及び投資委員会による優遇措置の改正案」

 

⑴ タイの政治情勢

 タイの政治を語る上で重要な人物として、タイ国王、2014年の軍事クーデターによって首相の地位についた現首相のプラユット氏、2001年から2006年まで首相を務めたタクシン氏、タクシン氏の妹である前首相インラック氏があげられる。

タクシン氏は2001年にタイ北部、北東部の貧困層の支持を得て選挙において圧倒的な勝利をして首相の座についた。これは非常に歴史的な選挙で、タイの田舎、貧困層が結束し、国政選挙の帰趨を決したということはこれまでに起こったことがなかった。歴史的にはタイの政治は、国王への忠誠心が強く、裕福で教育を受けたエリート層によって支配されてきた。しかし、2001年、億万長者の富裕層であるタクシン氏がバンコク以外の貧困層をターゲットとして立候補し、その結果大勝利をおさめることになる。この選挙で真に歴史的であったのは、タクシン氏は選挙において公約した政策を(その当否は議論の余地があるものの)実際に実現していったということにある。たとえば、30バーツ医療制度、100万バーツ投資ファンド、一村一製品制度などだ。

タクシン氏の支持者は「赤シャツ」と呼ばれている。しかしながら、問題はバンコクのエリート層がタクシン氏は腐敗しているとして嫌っていることだ。「黄シャツ」と呼ばれるこのグループは当時大きな反対勢力となり、政府官邸の前でキャンプをはっていた。

2006年にタクシン氏がニューヨークに外遊中に憲法裁判所がタクシン氏を汚職で有罪とし、収監を命じる判決を下した。そして、タクシン氏は亡命し、以降タイには帰ってきていない。裁判所が新たに任命したのはオクスフォード出身のエリートで黄シャツを支持母体とするアピシット氏であった。しかし、赤シャツは自らが選出したリーダーを裁判所によって取り替えられ、騙されたと感じている。大きな反対勢力になるのは今度は赤シャツの番だ。

そして、2008年、タクシン氏の妹であるインラック氏がタクシン氏と全く同じ支持基盤により選挙で大勝利する。すると、黄シャツはハッピーではない。このような状況で、2014年まで「黄シャツ」と「赤シャツ」との対立があり、プラユット氏による軍事クーデターへと発展した。そして、プラユット氏は抗議活動を禁ずる戒厳令を発令し、今日に至る。

黄シャツと赤シャツの対立はおさまってはいるが、解決されたわけではない。そのため、再び対立が顕在化する日が来るだろう。最後に、これからどのような展開になるのかについて私見を述べたい。

プラユット首相は日本政府に対し、来年初頭に選挙を行うと述べた。しかし、私見ではプラユット氏は自らが選挙に勝利すると確信したときにのみ選挙を実施するだろう。現時点においてプラユット氏は選挙において勝てないと思われる。そのため、現在から次回選挙までの間、軍事政権が長く続くかもしれない。

最後に、国王について述べたい。国王は87歳であるが、現在もタイにおいて非常に大きな影響力を有している。国王が亡くなったとき、どのように状況が変化するかは分からないが、変化すること自体は必至だ。

長い目で見れば、タイは成長を続けると思っている。これは周辺国に比べてタイにはアドバンテージがあるためだ。

⑵ 外国人事業法

次に、実施されることになれば日系企業による投資に大きな影響を与えることになる改正案について紹介したい。

外国人事業法は外国人からの投資についての規制だ。外資企業が行うことが許される事業活動の種類について規制している。規制は事業を行う前に政府からの特別の許可を得ることを外資企業に求めることでなされている。現実にはタイで特別の許可を取得することなく行うことができる唯一の事業は、輸出のための製造業である。

また、外国人事業法は、ローカル会社には適用されない最低資本金の規制も定めている。通常、最低資本金は300万バーツ(1100万円相当)となっている。本セミナーでは、製造業以外で投資の多くを占めるサービス会社と販売会社を前提として解説する。

日系企業がサービス業、販売業を行うために必要な政府による許可は「外国人事業許可」と呼ばれ、非常に取得が難しいか又はほぼ取得が不可能とさえいえる。対照的に、ローカル会社は特別の許可なく、また、最低資本金もなしにこれらの事業を行うことができる。そのため、「外国人」の法律上の定義が非常に重要になる。なぜなら、「外国人」に該当しなければ外国人事業許可及び少なくとも1100万円相当の最低資本金要件を避けられるからだ。

現在のスタンダードな実務では、サービス業、販売業を行う会社はタイ人による名義上の株主を使用し、その会社の取締役会をコントロールすることにより事業を行っている。つまり、タイ人又はタイ資本の会社と関係を持ち、51%の株式を保有してもらう。日本側が保有する株式は優先株式として特別な議決権、配当受領権を設定する。また、日本側は株主間契約で日本の会社が取締役会の多数を任命できるようにもする。現在、この実務は外国人事業法を遵守はしていないものの、日系企業により使用されるスタンダードな実務となっており、安全と見られている。しかし、政府が外国人事業法の改正に踏み切る場合、名義上の株主を使用することのリスクが膨れ上がるだろう。

議論されている改正案は「外国人」の定義について、持株比率に着目するだけではなく、会社を実効的にコントロールすることを含むように拡大するものだ。この改正案が実施されれば、ほぼ間違いなく現在の実務で採られている方法では「外国人」に該当することになり、外国人事業許可と最低資本金要件の規制が及ぶことになる。

タイ政府は、外国人事業法が改正されても、新規設立の場合にのみ適用され、既存の会社には影響しないと説明した。しかし、これから進出する日系企業にとっては大きな影響がある。この改正案は日系企業を含む外資企業による批判の対象になっており、タイ政府は計画をペンディングにすると述べたが、いまだに政府の計画ではあるので、いつか改正案が前に進み出すだろう。

⑶ 投資委員会(Board of Investment、「BOI」)

次に、2015年1月に施行された投資委員会の新ポリシーについて紹介したい。投資委員会は投資優遇措置を提供することでタイへの投資プロジェクトを誘致するための政府機関である。投資委員会によって用いられる基準はプロジェクトにどの程度の投資がなされるか、タイに有益なプロジェクトか、といったもので、国が利益を受けるものであればそれだけ投資優遇措置も手厚いものとなる。投資委員会によって通常付与される優遇措置は次のとおりである。

・法人税に対する最長8年間の免税(タイは東南アジアで最長の免税期間を有する)
・機械、原材料に対する輸入関税の免除
・土地の所有許可
・労働許可の有利発行

また、投資委員会ゾーンについても変更があった。投資委員会はタイを3つのゾーンに分けている。具体的には、バンコク又はその周辺地域のプロジェクトをゾーン1、これ以外の地域でのプロジェクトをゾーン2、ゾーン3に分類している。ゾーン1のプロジェクトに与えられる優遇措置は最も少なく、タイの最貧困地域であるゾーン3のプロジェクトには最も手厚い優遇措置がとられる。しかし、新ポリシーでは、地域に関係なく、促進される事業に優遇措置が提供されるので、プロジェクトの地域は意味を有しないように思える。

最後に、メリット・ベースの優遇措置について解説する。これは研究開発、先端技術のトレーニングなどに関するプロジェクトのことで、これらにはさらなる優遇税率が付与される。

2. 「労働問題及び一般的な投資シナリオ」

 

⑴ 労働問題

次は多くの日系企業が直面する労働問題について紹介する。

 a.解雇

多くの外資企業で取り扱いを誤っている分野が解雇である。特に多くの従業員を解雇する場合には訴訟に発展する潜在的リスクが高く、紛争が発生したときにはタイの労働裁判所は非常に労働者保護に厚い傾向がある。解雇を検討するときには次のような事情を考慮する必要がある。

解雇が経済的理由によるもので、全従業員を解雇するわけではない場合、解雇の対象者をどのように選択したのかに関する説明を準備しておく必要がある。そして、その理由は従業員の年齢、性別などの偏見に基づくものと見えるようであってはならない。

タイの多くの従業員は自分の権利についてとてもよく理解していることに注意しなければならない。そのため、従業員とのやりとりはすべて記録として残しておくことが重要である。

また、解雇手当の金額も考慮しておくべきである。タイでは解雇手当は以下の表のとおり計算される。

雇用期間 解雇手当の金額
120日以上1年未満 給与の30日分
1年以上3年未満 給与の90日分
3年以上6年未満 給与の180日分
6年以上10年未満 給与の240日分
10年以上 給与の300日分

解雇の流れとしては、次のようになる。解雇をする場合には事前にすべて計画をつくっておくべきである。経営者がスタッフを呼び、解雇を告げる。その後速やかに書面による解雇通知を出す。通常、解雇の効力発生日は解雇を告げてから1日後又は2日後である。このように短い期間を定める理由としては、退職従業員とのコンタクトを最小限にすることにある。解雇の効力発生日において解雇手当と引き換えに会社をすべての責任から免責する旨に同意するとの受領書にサインするよう従業員に求める。これによって会社の潜在的な責任を大きく軽減させることができる。ただし、従業員にはこのような書面にサインする法的な義務まであるわけではないので、会社がサインを強要することはできない。

適切に解雇の手続きを行ってもなお主張されることのある主張は不当解雇である。つまり、解雇に理由がなく、従業員が不当に取り扱われたため、その結果生じた損害を賠償せよという主張だ。不当解雇か否かを判断する際に、裁判所は、従業員の収益力、年齢、新しい仕事を得る可能性、従業員を解雇対象として選択した方法などを考慮する。裁判所が不当解雇と認定した場合には、雇用期間における各年度に応じて1か月分の給与を上乗せして支払わなければならない。たとえば、5年間勤務していた従業員であれば、追加で5か月分の給与を解雇手当に上乗せして支払う必要がある。

b.労働組合

労働組合も外資企業が誤りを犯しやすい分野である。タイの労働組合は過激ではないものの、積極的に活動している。ほぼすべての労働組合は工場レベルのもので、同一産業においては団結して活動がなされている。

労働組合側は自分たちを尊重することを求めており、適切な取り扱いがなされないと問題になることがある。たとえば、会社の新しい規程について労働組合に事前に説明することを期待しているし、セレモニーでは特別な席を設けることを求めるであろう。会社の経営陣と従業員との関係性がうまくいくかは労働組合との折り合いの良し悪しによって大きな影響を受けることになる。

⑵ 一般的な投資シナリオ

新規に投資する場合によくある一般的な投資シナリオについて紹介したい。具体的には、駐在員事務所の設立、サービス会社の設立、販売会社の設立、そして、最後に工場の設立について紹介する。

まず、日系企業に利用可能なツールについては、すでに紹介したとおり、投資委員会による投資優遇措置がある。また、日タイ租税条約もよく使用される。日タイ租税条約はタイから日本へのロイヤルティ、サービス料金の支払いに対するタイの源泉徴収税を減税することができる。日タイには2017年までの自由貿易協定も存在する。これによって両国間の輸入関税が減税される。最後に、アセアン経済共同体へのタイの加入によって、タイにより製造された製品を他のアセアン諸国に輸出する場合には関税が免除されることになる。

それでは、以下では4つのよく使われる投資シナリオについてお話したい。

a.駐在員事務所

日系企業が駐在員事務所を設立するよくあるパターンは、日本の本社がタイ現地の工場に製造を委託しており、製品の品質管理をタイでは最小限の設備で行いたいという場面である。タイでは駐在員事務所は指定されている業務のみを行うことができ、収益活動をすることはできない。

以下の活動を行うことができる。

・本社のためにタイで商品又はサービスを調達すること
・本社がタイで製造委託した製品について品質管理を行うこと
・代理店や消費者に販売される本社の製品についてアドバイスを提供すること
・本社の新商品・サービスについて宣伝活動をすること
・本社にタイのビジネス・トレンドについて報告すること

駐在員事務所の設立には外国人事業許可を取得しなければならず、3年のうちに1100万円相当の資本金を払い込む必要がある。

b.サービス会社

サービス会社を設立する場合、日本の会社が100%株式を保有するか、名義上の株主を使用し、タイローカルの会社として設立するかを検討する必要がある。前述のとおり、この検討は非常に重要となる。日本の会社が100%株式を保有する場合には取得が困難な外国人事業許可と1100万円相当の資本金が必要になる。

c.販売会社

日本などタイ以外で製造した製品をタイで販売するための販売会社を設立することもよくあるシナリオである。ここでもやはり日本の会社が100%株式を保有するのか、タイのローカル会社とするのかを検討しなければならない。サービス会社と同様に、日本の会社が100%株式を保有する形態にすると、外国人事業許可が必要になる。ただし、ここでは例外がある。

もし会社が1億バーツ、つまり、3億6000万円の資本金を有する場合には外国人事業許可は要求されない。

d.工場

タイで工場を設立する場合、まずは通常、投資委員会にどのような投資優遇措置が利用可能か照会し、対象となる事業、免税期間、関税の免除について情報を得る。

次に工場の設立地域を検討し、土地を購入するのか賃貸するのかを決定することになる。

3. おわりに

名義上の株主を使用するスキームについてドイル氏からのアドバイスとしては、タイ人の従業員を株主とすることは避けるべきとのことでした。名義上の株主とはいっても法律上の株主であり、株主間契約があっても法律に違反する契約であるとして無効を主張されるリスクもあるためです。

なお、本セミナー参加者にはドイル氏より、著書の最新版である『Doyle’s Practical Guide to Thailand Business Law 4th Edition』の配布がありました。

PDF版はこちらから

執筆者

法律部アソシエイト 弁護士

木村 剛大 きむら こうだい

[業務分野]

企業法務 国際法務 知財一般 特許 意匠 商標

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