法律情報

国内外の最新の法律動向や、注目のトピックに関する法律情報を随時発信
知的財産全般、著作権法、不正競争防止法、種苗法等についての法律情報を
お探しの場合には「知財一般」を選択して下さい。

M.Z. Berger & Co., Inc. v. Swatch AG事件 ~ 誠実な使用意思

商標部弁理士 黒田 亮

米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)
第2014‐1219号2015年6月4日判決
「M.Z. Berger & Co., Inc. v. Swatch AG事件」
(米国特許商標庁商標抗告審判部<TTAB>審決に対する控訴審判決)

控訴人:M.Z. Berger & Co., Inc.【以下、「Berger社」】
被控訴人:Swatch AG (Swatch SA)(Swatch Ltd.) 【以下、「Swatch社」】

1.事件の概要

米国の使用意思出願の出願人が出願時に出願商標を取引上使用する「誠実な意思」を有していなかったとしてこの登録を拒絶した特許商標庁商標抗告審判部の異議決定(審決)を、連邦巡回控訴裁判所が維持した判決

2.経 緯

(1)出 願

Berger社は、2007年7月5日付けで、腕時計、置時計、及び種々の時計関連品(第14類)(詳細は以下のとおり)を指定する商標「iWatch」を出願した。

<指定商品>

Cases for clock and watch-making; Cases for watches and clocks; Clocks and watch hands; Dials for clock-and-watch-making; Diving watches; Jewelry watches; Parts for watches; Pocket watches; Stop watches; Watch bands and straps; Watch boxes; Watch bracelets; Watch cases; Watch chains; Watch clasps; Watch crowns; Watch faces; Watch fobs; Watch parts; Watch straps made of metal or leather or plastic; Watches; Watches containing a game function; Wrist watches; Alarm clocks; Clock dials; Clocks; Pendulum clocks; Small clocks; Table clocks; Wall clocks.

本件出願は使用意思(“Intent to Use”)をベースとし、本願商標を指定商品について取引上使用する誠実な意思(”a bona fide intent to use the mark in commerce”)を有する旨の宣言書を含んでいた。

(2)異議申立

Swatch社はこの出願に対し異議申立を行い、出願商標「iWatch」が自ら所有する先行商標「Swatch」と混同を生ずる点、及びこの出願の時点でBerger社は出願商標「iWatch」を取引上使用する誠実な意思を有していなかった点を主張した【注:後者の異議理由は後に追加主張】。

(3)TTABの審決

この異議申立について、TTABは、本願出願時のBerger社の意図は将来関連商品の開発を始めることを決定した場合に備えて単に商標について権利を予約(”merely to reserve a right in a mark”)しようとするものに過ぎないから、Berger社は当該商標を取引上使用する誠実な意思を有していたとは言えないとして、米国商標法第1条(b)(15 U.S.C.§1051 (b))に基づきSwatch社の異議申立を認容した(Swatch AG v. M.Z. Berger & Co., 108 U.S.P.Q.2d (BNA) 1463 (T.T.A.B. 2013))(尚、本願商標と先行商標「Swatch」との混同の可能性については否定)。この審決に対しBerger社は控訴した。本件判決はこの控訴審のものである。

3.CAFCの判示

(1)結 論

Berger社が本願出願時に本願商標を取引上使用する誠実な意思を欠いていたという理由で本件異議申立を認容したTTABの審決を支持する。

(2)検 討

(a)「取引上使用する誠実な意思」の欠如は、異議申立理由となり得るか

CAFCはかつてこの判断をしていなかったので、この問題に初めて取り組む。特許商標庁はこれまで、この誠実な意思の欠如が商標出願に異議を申立てるための適法な理由になると判断してきた。我々も同意見である。異議申立人は商標出願人の権利を否定するいかなる法令上の根拠に依拠することができる。取引上使用する誠実な意思を有していることは法第1条(b)における有効な使用意思出願のための法定要件の一つである。従って、この誠実な使用意思の欠如は異議申立人が出願商標に対し異議申立を行うための有効な理由となる。

(b) 法第1条(b)における「取引上使用する誠実な意思」は何を意味するか

「誠実な意思」の語について法令上の定義はないが、法第1条(b)は「出願人の意思はその者の善意を示す状況の下で(”under the circumstances showing the good faith of such person”)決定しなければならないと規定する。「その者の善意を示す状況の下で」という文言は、出願人の意思が単なる主観的な信念以上の、実証できるものでなければならない(”must be demonstrable and more than a mere subject belief”)ことを強く示唆している。立法経過及び商標法の主要な論文も、出願人の誠実な意思は客観的根拠に基づいて査定すべきであるという解釈を支持している。法令や立法過程では、この客観的根拠として要求される分量や種類は示されていない。証拠として要求されるハードルは高いものではないが、商標を使用する出願人の意思が堅固であって、単に商標について権利を予約する意図ではないという状況が示されていなければならない。TTABは、この点について全体の状況を検討しケースバイケースで決定することができる。

(c) Berger社に「取引上使用する誠実な意思」があったか

Berger社は、「誠実な意思」のための最小基準を満足しておりTTABはBerger社側の証拠を不当に軽視するものだと主張する。しかし、出願人の「誠実な意思」については、Berger社が必要な意思を有していなかったことを証明するような事実をも含めた全体の状況を検討しなければならない。

ここで証拠を全体として再考察すると、十分な証拠がTTABの結論を裏付けるものと認める。

(i)本件商標の使用意思を十分に示す証拠書類はあるか

本願商標の使用の可能性を示す唯一の証拠書類は、(イ)Berger社の従業員が本件出願の4日前に行った商標調査、(ロ)この従業員が本件出願の審査官と交わした議論を記載した社内Email、(ハ)本件商標を付した腕時計と置時計の画像を送信した社内 Email である。商標調査を行ったBerger社の従業員は、この商標調査はBerger社が登録できない商標の出願をして時間を浪費しないように出願前に行った日常的なものであると証言している。この従業員と審査官の間の議論を伝えた社内Email もまた出願に関係するものであることに議論の余地はない。腕時計と置時計の画像を送信した Email も、本願商標の使用予定態様を示す書類を要求した審査官に応答するために特許商標庁に提出されたものであることは明白である。従って、TTABの判断と同じように、Berger社が提出した証拠書類は本件出願の審査手続のためだけに作られたものであり、商標の使用計画を示すものではないと思われる。これらの証拠書類が本件商標出願に関連して作られていることから考えると、本件商標を付した腕時計と置時計の画像は、取引において実際に製品の開発に乗り出すためというよりも本件出願の審査手続を進めるために作成されたというTTABの判断は妥当である。

(ii)証言証拠(”Testimonial evidence”)は出願時の使用意思を示しているか

本件出願は腕時計、置時計、及び種々の時計関連品を指定するが、Berger社のオーナー兼CEOであるBernard Mermelstein氏はBerger社が腕時計以外の商品に本件商標を使用しようと意図したことはないと証言した。また、本件出願手続を処理したBerger社の従業員は、Mermelstein氏から本件商標を腕時計と置時計に商標登録するよう指示を受けたが、「全てのドアを開放しておく」(”leave all doors open”)ためにその他の種々の時計関連品も本件出願で指定したと証言している。

Mermelstein氏は、本件出願から3年後の2010年の時点でBerger社は本願商標の下でどのような種類の腕時計を販売するつもりなのか、またその腕時計が特定の機能を持つものかどうかすらもまだ考え付いていなかったと証言する。Mermelstein氏は更に、Berger社は出願時点で、もし後に関連する腕時計の開発を決定したときに備えて本件商標の権利を予約するという願望以上のものは何も持っていなかったとも証言する。

「もし我が社が、テクノロジーウォッチや情報ウォッチ、あるいはこれらの機能を有するどんなウォッチであろうと、このような腕時計をもし開発すると決定したならば、本願商標は良い商標であろうと思った。」

これらの証言によりMermelstein氏は、Berger社が本願の出願時において本願商標を使用する確固たる決意をまだ持っていなかったことを認めたも同然である。

(iii)Berger社の長年の時計事業の歴史に基づき使用意思を推認することができるか

Berger社は長年腕時計と置時計の製造販売の事業を営んでおり、TTABがBerger社の時計事業の歴史を無視した判断を行ったと主張する。しかし、Berger社は本願商標を対話型の「スマートウォッチ」に使用するつもりであったと主張していながら、これまでそのような腕時計を製造したことはなく、また出願後にそのような腕時計を開発するための措置をとったこともないとBerger社の従業員は証言する。Berger社の時計の製造販売の歴史は本件紛争に特に関係があるものではなく、Berger社の開発活動や製造行為がなかったことに照らしてBerger社は本件出願時に本件商標を使用する誠実な意思を有していなかったと結論したTTABの判断には誤りはなかった。

(d) TTABは出願時の宣誓供述書を超えて使用意思を示す証拠を捜索する権限を有するか

Berger社の主張によれば、TTABは、Berger社が本件出願時に本願商標の開発・宣伝・製品化に踏み出していたことを示す証拠にこだわっているため、間違った法的基準を適用しているとされている。すなわちBerger社は、TTABが客観的な証拠を重視することは特許商標庁の行政審査の手順と規則に示された出願・登録の手続に矛盾するものであって、誠実な使用意思について法令や特許商標庁の規則で要求されるものよりも厳格な基準を誤って適用していると主張する。

我々はこの主張に同意できない。TTABは、出願時に出願商標を実際に開発し製品化し宣伝することが出願人に要求されるとはどこにも述べていない。またTTABは、そのような基準を適用すると述べたこともない。そうではなく、TTABの見解は、Berger社の誠実な使用意思の欠如を示したものも含めた全ての関連する事実と状況を検討した結果として結論に至ったということを示すものである。これは全く法第1条(b)(1)(15 U.S.C.§1051 (b)(1))(「その者の善意を示す状況の下で」)に基づいた適正な取り調べ(”inquiry”)である。

また、TTABの見解は特許商標庁の実務と矛盾するものではない。特許商標庁はその裁量で、使用意思出願を誠実な使用意思を明示した真実宣言された供述書(”verified statement”)のみに基づいて登録許可に進めることができる(法第1条(b)(3)(B))。しかし、特許商標庁は出願人の「誠実な」意思を示す更なる証拠を捜索する法令上の権限を有する(法第1条(b)(1))。まさに特許商標庁は、出願人の使用意思が当事者間の手続(”inter partes proceedings”)において争点になるかどうかを考慮するのみならず、適当な状況下でこの争点について自ら取り調べる権限を保有した。

「一般に、出願商標を取引上使用する誠実な意思を示す出願人の宣誓供述書は、査定系手続(”ex parte proceeding”)では誠実な意思の証拠として十分であろう。誠実な意思に関する問題は当事者間の手続において検討されることになろうが、出願人が出願商標を取引上使用する誠実な意思を有していないことが証拠上明らかな場合を除き、特許商標庁は当事者間の手続において取り調べを行わない。(Trademark Manual of Examining Procedure <TMEP>第1101項)」

TTABは誠実な意思の判断基準の適用において誤りを犯していない。上記のとおり、出願人が出願商標を取引上使用する誠実な意思を有するかどうかは、全体の状況に基づいた客観的な取り調べに当たる。TTABはこの取り調べを行ったものである。

                            以上

執筆者

商標・意匠部アソシエイト 弁理士

黒田 亮 くろだ まこと

[業務分野]

意匠 商標

黒田 亮の記事をもっと見る

商標分野の他の法律情報

検索結果一覧に戻る

お電話でのお問合せはこちら

03-3270-6641(代表)

メールでのお問合せはこちら

お問合せフォーム

〒100-0004
東京都千代田区大手町2丁目2番1号
新大手町ビル 206区
電話 : 03-3270-6641
FAX : 03-3246-0233

ご注意

  • ・本サイトは一般的な情報を提供するためのものであり、法的助言を与えるものではありません。.
  • ・当事務所は本サイトの情報に基づいて行動された方に対し責任を負うものではありません。

当事務所のオンライン及びオフラインでの個人情報の取り扱いは プライバシーポリシーに従います。