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Means-plus-Functionクレームであるか否かの判断基準 -Williamson v. Citrix Online, LLC(2015年6月16日CAFCオンバンク判決,Fed. Cir. No. 2013-1130)

森下 梓弁護士,外国特許情報委員会

第1. はじめに

米国特許法では、あるクレームがMeans-plus-Function(MPF)クレームであると解釈された場合、その権利範囲は明細書に具体的に記載された構造、物質等に限定される。また、MPFクレームであると認定されたにもかかわらず、明細書に対応する構造的記載がなければ、当該クレームは不明確であると判断される。

本判決は、CAFCが10年来採用してきたMPFクレームの判断基準を実質的に変更した。

第2. 経緯

Williamsonは、米国特許第6,155,840号(以下「本件特許」という。)の所有権者である。Williamsonは、2011年3月22日、カリフォルニア州中央地区連邦地裁にて、Citrixらを相手に、本件特許に基づき侵害訴訟を提起した。

地裁は、本件特許のクレーム(以下、「本件クレーム」という。)をMPFクレームであると認定し、その機能に対応する構造が明細書に開示されていないために無効であると判断した。

CAFCは、本件クレームをMPFクレームと認定したことは誤りであると判断して、地裁判決を差し戻した。

当該CAFC判決がオンバンク(大法廷)に付され、本件クレームがMPFクレームであるか否かについて改めて判断がなされた。

第3. 本件特許

本件クレームの記載は以下の通りである。

8.ネットワークに接続された複数のコンピュータシステムの間で分散学習を実施するためのシステムであって、
・・・前記司会コンピュータシステムと前記視聴者コンピュータシステムとの間に伝達される通信を受信し、意図された受信コンピュータシステムに前記通信を中継し、そして(前記)ストリーミングデータモジュールの動作を調整するための分散学習制御モジュールを含む該分散学習サーバと、
を含む、前記システム。

上記下線部の記載について、当該「分散学習制御モジュール」に対してMPFクレームに関する米国特許法第112条第6項の適用があるかが争点となった。

第4. CAFCオンバンク判決の概要

CAFCの先例は、クレーム中で「手段」との用語を用いると、そのクレームには第112条第6項が適用されるという推定が働き、逆に「手段」との用語を用いなければ、第112条第6項が適用されることはないという推定が働くと述べてきた。

しかし、CAFCは、ある要件が「手段」との用語に続いて記載されているからといって、そのことのみで自動的にそのクレームがMPFクレームであると考えてきたわけではない。CAFCの先例が強調してきたのは、「手段」との用語が存在するか否かではなく、「クレームの用語が当業者にとって構造名として十分明確な意味を有しているかどうか」である。

近時、CAFCは「『手段』との用語が存在しないことによる推定は強く、容易に克服できない」と述べた[注1]。この先例によって、「『手段』との用語を用いずに機能的な言葉で表現されたクレーム限定要素は第112条第6項の適用を受けない」という推定を覆すためのハードルは高いものとなっていた。

このような高いハードルは正当化することができない。「手段」との用語を欠いた限定は第112条第6項の適用を受けないという推定の「強い」性格は破棄されるべきである。

MPFクレームか否かの新たな基準は、従前と同様「クレームの用語が、当業者にとって、構造名として十分明確な意味を有していると理解されるかどうか」である。

本件クレームは、伝統的なMPFクレームの限定に一致する形式を備えている。本件クレームは「手段」との記載を「モジュール」に置き換えたものであり、そして「分散学習制御モジュール」によって実行される3つの機能を記述している。

「モジュール」は、ソフトウェアやハードウェアに関して言えば、単に特定の機能を実行する要素を意味する一般的記載に過ぎない。

クレーム中の「分散学習制御」との用語は、「モジュール」に構造を付加するものではない。

よって、当該クレームはMPFクレームであり、第112条第6項が適用される。

本件特許明細書は本件クレームに「対応する構造」を開示していない。本件では、分散学習制御モジュールは明細書に説明されたように特別な機能を有するものであるから、その実行には特別なコンピュータが必要とされる。この場合、明細書に開示される構造は、汎用コンピュータやマイクロプロセッサでは足りず、クレームの機能を実行するためのアルゴリズムが開示されている必要がある[注2]。しかし、本件明細書はクレームの機能を実行するアルゴリズムを開示していない。

第5. 判決のポイント

本件は、「手段」や「工程」といった明示の記載がなくとも、実質的にクレーム中に構造が規定されておらず、代わりに機能が規定されていれば、MPFクレームとして第112条第6項の適用を受けることを改めて確認した点で意義を有する。

従前から、USPTOの審査基準では、「手段」との記載が用いられていなくとも、それと同様の代替的用語が用いられており、構造的表現の代わりに機能的表現で修飾されていれば、MPFクレームであると判断されてきた。しかし、クレームに「手段」や「工程」との明示記載がなければ、審査官は逆にクレームを可能な限り広く解釈して新規性や非自明性の争点とすることを望む傾向にあり、出願人が敢えて主張しない限り、「MPFクレームであるか否か」を争点として審査が行われることは少なかったと言える。2015年に改訂されたMPEPでは、米国特許法第112条第6項の適用基準として、本判決の「クレームの用語が、当業者にとって、構造名として十分明確な意味を有していると理解されるかどうか」という基準が明示的に引用された。この点を踏まえて、本判決がUSPTOの審査実務にどのような影響を与えるかについても注視する必要がある。

[注1] In Lighting World, Inc. v. Birchwood Lighting, Inc., 382 F. 3d 1354, 1358 (Fed. Cir. 2004)
[注2] Net MoneyIN, Inc. v. VeriSign, Inc., 545 F. 3d 1359, 1367 (Fed. Cir. 2008)

執筆者

特許部

外国特許情報委員会

[業務分野]

特許

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