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米国(バイオ): Myriad事件(遺伝子特許は米国特許法 101条の保護対象か)

山口 晶子弁理士

米国連邦巡回控訴裁判所 (CAFC)は、遺伝子特許について米国特許法 101条が規定する特許対象としての適格性を認める判決をくだした(Fed. Cir. No.2010-1406(2011年 7月 29日))。

本事件は、Myriad Gentics, Inc (以下 “Myriad”という)が保有する、乳がんと卵巣がん関連遺伝子(BRCA1及びBRCA2)に関する、遺伝子、診断方法、薬剤スクリーニング方法に関する特許 ※ 1について、一審のニューヨーク南部地裁が特許法 101条に規定する特許対象に該当しないという理由で、特許が無効であるとした判断に対して、Myriadが控訴していたものである。

これに対して、CAFCは、遺伝子の特許とスクリーニング方法の特許については、地裁の判断を覆し、特許対象に該当するとしたが、診断方法は、特許対象に該当しないという地裁の判断を維持した。

※1: 7件の特許で、対象のクレーム数は15。USP 5,747,282(Claim 1,2,5,6,7,20)、USP 5,837,492(Claim 1,6,7)、 USP 5,693,473(Claim 1)、USP 5,709,999(Claim 1)、USP 5,710,001(Claim 1)、 USP 5,753,441(Claim 1)、USP 6,033,857(Claim 1,2)

この判決は、Lourie判事、Moore判事及び Bryson判事が別々の意見を述べており、特に、単離した DNAの特許対象としての適格性に関しては、意見が分かれている。このため、今後最高裁まで争われる可能性がある。

<判決の概要>

(1)遺伝子の特許 (USP 5,747,282の Claim 1等)

cDNAだけでなく単離した DNAは、天然の DNAと比較して著しく異なる化学構造を有するという点で、単離した DNAは、101条の特許保護対象であるとした。

上記に対して、Moore判事及び Bryson判事は共に、cDNAの特許対象としての適格性を認める点においては意見が一致しているが、単離した DNAの特許対象としての適格性に関しては下記のように異なる意見であった。
(Moore判事)単離した DNAの特許対象としての適格性を認めるという結論では同じであったが、理由が異なり、構造上の相違だけでなく、自然界に存在する場合とは異なる意味のある有用性をもたらすかどうかで判断すべきであるとした。
(Bryson判事)単離した DNAの特許対象としての適格性を否定した。短い DNA断片である場合には、有用性に寄与する付加的な構造を記載しなければならないとした(例えば、プローブとしての有用性である場合には、化学的標識を加える)。長い DNA配列は、自然界に存在する以外の機能を有さないので、特許性がないとした。

(2)方法の特許
 (A) 診断方法:配列の“comparing”又は“analyzing”方法

(USP 5,709,999の Claim 1、USP 5,710,001のClaim 1)
特許クレームは、2つの BRCAの遺伝子配列を“比較する(comparing)”又は“分析する(analyzing)”する 1工程のみを含み、上記工程をどのように適用するか(application)を記載していないので、抽象的な精神的工程のみであると判断された。

上記方法クレームは、Machine-or-Transformation Test※ 2の要件を満たさず、101条の特許保護対象ではないとして、地裁の決定が維持されている。

(B)治療薬のスクリーニング方法

(USP 5,747,282の Claim 20)
「形質変換させた宿主細胞を増殖させる工程」と「その細胞の増殖速度を測定する工程」とを含むがん治療薬のスクリーニング方法に関する特許クレームに関しては、上記工程がtransformative(変化)の工程なので、Machine-or-Transformation Test の要件を満たし、101条の特許保護対象であるとして、地裁の決定を覆した。

※2:Machine-or-Transformation Test:(1)特定の機械や装置に関連付けられているか、又は(2)特定の物を変化させて異なる状態や物にするものかを要件として特許適格性を判断する。

コメント

単離した遺伝子の特許適格性については、3人の判事で意見が分かれているため、今後の動向に注目する必要がある。しかしながら、Moore判事及び Bryson判事は共に、単離した遺伝子の特許適格性について、天然の DNAと比較して新たな有用性または機能を有するかが要件であるとしている点では一致している。

また、遺伝子診断方法のクレームに関しては、配列を“比較する(comparing)”又は“分析する(analyzing)”という抽象的な工程だけでは、Machine-or-Transformation Testの要件を満たさないとされるので、transformative(変化)の工程を記載することを検討する必要がある。1例としては、CAFCの Prometheus事件では、薬剤を投与し、その代謝産物を測定する工程が、transformativeと判断されている。

執筆者

特許部化学班パートナー 弁理士

山口 晶子 やまぐち あきこ

[業務分野]

特許

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