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Cases disputing whether it is the use of a retail service trademark or a goods trademark

ユアサハラ企業法務ニュース第48号所収
ユアサハラ法律特許事務所,2010年発行
高田 雄一郎

小売役務商標の使用か商品商標の使用かにつき争われた事案(日・米・欧)

1.はじめに
小売役務商標の商標登録出願が認められてから(「意匠法等の一部 を改正する法律」平成 19 年 4 月 1 日施行)3 年が経過している。
これにより一部の使用行為について、小売役務商標の使用と商品商標の使用とが条文上同じ行為を示すこととなった。その理由は、商標 法第 2 条第 2 項に「小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が追加されたが、その他の商標法上の規定はそのまま小売役務に適用されたこと、商標法第2 条 3 項 3 号の「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」には、サービスの提供にあたって使用されるショッピングカートや買い物かご、ショーケース、接客する店員の制服等だけでなく、取扱商品も含まれると解釈できるためである。
以下の行為がこれに該当する。
・商品商標の使用行為「商品又は商品の包装に標章を付する行為」(商 標法第 2 条 3 項 1 号)と小売役務商標の使用行為「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(取扱商品)に標章を付 する行為」(商標法第 2 条 3 項 3 号)
・「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法第 2 条第 3 項第 8 号)
今回、小売役務商標の使用であるか、商品商標の使用であるかが争われた3 件の高裁判決及び米国審判部、欧州商標局での決定につき紹介したいと思う。

2.高裁判決
(1)平成 21 年(行ケ)第 10203 号審決取消請求事件
・原告であるアシェット フィリパキ プレス ソシエテ アノニム が被告の株式会社マイカルの商標登録2724292 号(出願日 平成 3 年 4 月 11 日)、商標「elle et elles」、指定商品第 17 類「被服、布製 身回品、寝具類」について不使用取消審判を請求したが、請求不成立の審決がなされたため、その取消を請求した事案である。
・原告側は、本件表示(「elle et elles」ほか)は、店舗名として被告の小売業務について使用されているものであり、かかる状態では、本件商標が指定商品に使用されたとはいえない旨主張した。
・裁判所は、被告がレディースインナーの専門店「elle et elles/ エル・ エ・エル」を設置し、店舗の壁や柱等に「elle et elles」と表示した上、婦人用下着等を陳列して販売した行為やチラシやパンフレットをもって、「エル・エ・エル /elle et elles」の表示のもと、婦人用下着について、その写真と共に広告をしたことにつき、商標法 2 条 3 項 8 号の使用に該当すると判断した。
・さらに小売役務商標制度に関して、以下の説明を付け加えている。商標を小売役務に使用した場合に、商品についての使用とは一切みなされないとまではいうことできない。すなわち、商品に係る商標が「業として商品を・・・譲渡する者」に与えられるとする規定(商標法第 2 条 1 項 1 号)に改正はなく、「商品 A」という指定商品に係る商標と「商品 A の小売」という指定役務に係る商標とは、当該商品と役務とが類似することがあり(商標法 2 条 6 項)、商標登録を受けることができない事由としても商品商標と役務商標とについて互いに審査が予定されていると解されていること(同法 4 条 1 項 10 号、11 号、15 号、19 号)からすると、その使用に当たる行為(同 法 2 条 3 項)が重なることもあり得るからである。
また、商品の製造元・発売元を表示する機能を商品商標に委ね、商品の小売業を示す機能を小売等役務商標に委ねることが、小売等役務制度本来の在り方であり、小売等役務商標制度が施行された後においては、商標又は商品の包装に商標を付することなく専ら小売等役務としてのみしか商品商標を使用していない場合には、商品商標としての使用を行っていないと評価する余地もある。本件商標は、小売等役務商標制度導入前の出願に係るものであるところ、前記 1 の認定事実によれば、被告は、小売等役務商標制度が施行される前 から本件商標を使用していたものである。このように、小売等役務 商標制度の施行前に商標の「使用」に当たる行為があったにもかかわらず、その後小売等役務商標制度が創設されたことの一事をもって、これが本件商標の使用に当たらないと解すると、指定商品から 小売等役務への書換登録制度が設けられなかった小売等役務商標制度の下において、被告に対し、「被服」等を指定商品とする本件商標とは別に「被服の小売」等を指定役務とする小売等役務商標の取得を強いることとなり、混乱を生ずるおそれがある。

(2)平成 21 年(行ケ)第 10177 号 審決取消請求事件
・弁理士である原告が、被告である株式会社オートバックスセブンの有する商標登録第 4423747 号(出願日 平成 11 年 3 月 29 日)、商 標「ハローズ/ AUTO / HELLO ! ! ES」、指定商品第 9 類「配電用又は制御用の機械器具、回転変流機、調相機、電気磁気測定器、・・・ 電気通信機械器具・・・、検卵器」について不使用取消審判を請求したが、請求不成立の審決がなされたため、その取消を請求した事案である。
・原告側の主張は次のとおりである。新聞折込広告の裏面には、「カーナビゲーション装置」「DVD プレーヤー」及び「スピーカー」といった各商品写真とともに各商品の品番や価格等が表示されているが、これらの品番等の前には固有の書体からなる「SANYO」「JVC」 「carrozeria」「macAudio」等の製造業者の商標が併記されている。 特許庁による前記ウの解説(甲 14)に照らせば、上記新聞折込広告に掲載されている各商品写真に併記された「SANYO」「JVC」 「carrozeria」「macAudio」等の商標は、明らかに当該商品の出所を表す製造者の商品商標と認識されるものである一方、当該新聞折込広告の表面の左上部角や右上部角に表示された「おかげさまでオートハローズ」等の商標は、当該新聞折込広告主であり、かつ、 掲載商品を取り扱う小売等役務の商標として認識されるので指定商品についての使用ではない。
・裁判所は、被告の100%子会社である株式会社エー・エム・シーがセールの広告の右上角に標章を表示して新聞折込みで配布した行為につき、登録商標と社会通念上同一の商標を指定商品の一つである「電気通信器具」に使用したと認めた。
・裁判所は、小売役務商標の使用行為と商品商標の使用行為の問題に関して、以下のとおり述べている。
「一つの商標が小売等役務の商標として使用されるとともに、商品についても使用されているということはあり得るのであって、本件使用標章が、小売等役務の商標として使用されているからといって、商品について使用されていないということはできないというべきである。本件広告の商品の写真には、『SANYO』『JVC』 『carrozeria』『macAudio』等の製造業者の商標が付されているが、 一つの商品に複数の商標が使用されるということも妨げないのであるから、本件広告の商品の写真にこれらの製造業者の商標が付されているからといって、本件使用標章がこれらの商品について使用されていないということはできないというべきである。
また、原告は、小売業者がその業務に係る小売・卸売に使用する商標の保護制度を導入するため『意匠法等の一部を改正する法律』(平成 18 年法律第 55 号)が平成 19 年 4 月 1 日より施行されていることや同改正法の附則には施行前からの使用を保護するために『継 続的使用権』が規定されていることを主張するが、同改正法は、『小売及び卸売りの業務において行われる顧客に対する便益の提供』を商標法の指定役務として保護することとしたものであり、また、『継続的使用権』は、それに伴い、同改正法の施行前からの使用を保護 するためのものであって、本件使用標章の使用が本件商標の指定商品についての使用ということができるのかに関する上記判断を左右するものではない。」

(3)平成 21 年(行ケ)第 10305 号 審決取消請求事件
・原告であるピンクベリーインクが、被告である有限会社ダックスの有する商標登録第 4398833号(出願日 平成 11 年 8 月 31 日)、 商標Pinkberry、指定商品第 25 類「洋服、コート、セーター類、 ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水着」について不使用取消審判を 請求したが、請求不成立の審決がなされたため、その取消を請求した事案である。
・原告は、小売等役務としての使用「PINKBERRY」の表示は、特定の商品との密接な関連性がなく、単に店舗における小売サービスを認識させるにとどまるから、小売等の役務の出所を表示するにすぎず、指定商品の出所を識別させるものではなく、本件商標が指定商品について使用されているとはいえないと主張した。
・裁判所は、被告が、衣料品の下げ札や手提げ袋に「PINKBERRY」の表示をしてこれを販売している行為は、商標法上 2 条 3 項 1 項の 「商品又は商品の包装に標章を付する行為」及び同項 2 号の「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示・・する行為」に該当するとした。
さらに小売役務商標制度に関し、平成 21 年(行ケ)第 10203 号審決取消請求事件と同様の説明を付け加えている。
上記 3 件に関する裁判所の判断の要点を挙げるならば、(1)商品商標の使用と小売役務商標の使用が重なることはあり得ること(2)小売役務商標制度施行後においては、専ら小売等役務としてのみしか商標を使用していない場合には、商品商標としての使用を行っていないと評価される可能性があるということになろうか。小売役務商標制度導入前は、小売業者等は取扱商品について商品商標を登録し保護を受けていたという実情に対する配慮が伺える。
翻してみると、小売役務商標制度導入後である平成 19 年 4 月 1 日 施行以降に出願された商標あるいは、使用が開始された商標については、結論が異なることもあり得るという点に注意を要する。

3. 米国、欧州での決定
(1)米国での決定
① 小売役務の使用として認められた事案
2000 年 6 月 20 日 Trademark Trial and Appeal Board
出 願 人:Ames Department Stores, Inc.
出願番号:No. 75/176,745
商 標:PERFECT PLUS& Design
指定役務:retail department store services featuring girls’ apparel and accessories
概 要:
審査官の要求に応じ、出願人が使用陳述書とともに提出した使用証拠は商品(girls’ clothing items)についての使用であって、小売役務の使用ではないとして審査官は拒絶査定を通知した。これに対し、出願人が不服審判を請求。出願人が使用している商標が小売百貨店の中で小売の出所として需要者に認識されていると考えられるとして、審判官は査定を取り消した。
審判官は、役務の使用証拠に関して以下の通りコメントしている。
「一般的に役務の使用証拠としては様々な種類の資料が考えられるが、対象となる役務の提供にともなう売上や広告に使用されたことを証明するものでなければならない。その役務との直接的な関連性を示す役務の内容が使用証拠に明確に言及されていなければなら ないとまでは要求されない。」
② 小売役務の使用として認められなかった事案
2003 年 7 月 11 日 Trademark Trial and Appeal Board
出 願 人:Seaman Furniture Company, Inc.
出願番号:No. 75/698,113
商 標:ASHLEY STUART
指定役務:Retail store services in the field of furniture and the like
概 要:
本願が実際の使用に基づく出願であるため、出願人は使用証拠を提出した。しかしながら使用証拠は商品(furniture)についての使用であって、指定役務の使用ではないとし、拒絶査定とされたため、不服審判を請求。審判官は次のような見解を示した。使用証拠中、 ASHLEY STUART は明らかに家具についての商標であるとの印象を与える。たとえば、“かえで材やかえで材の化粧版の自然な仕上がり”の下欄に“ASHLEY STUART LIFESTYLE BEDROOM” のフレーズが記載されているのは、ASHLEY STUART BEDROOM の家具の材質を表示していると示すものである。使用証拠からは、 ASHLEY STUART が小売店ではなく、家具の出所が ASHLEY STUARTであると需要者が認識するといえる。よって商品商標についての証拠であると判断し、出願人の主張を退けた。
審判官は、役務に関する使用に関して以下の通りコメントしている。
「商標が指定役務と直接関連しているかを判断する場合、例えば、 使用証拠中、商品“家具”について“ASHLEY STUART”が使用されていないことをもって、小売役務での使用とするといった安易な方法で行われるべきではない。」
「対象となる役務の広告資料が使用証拠として認められるためには、指定役務と商標の直接的な関連性が必要である。そのため、使用証拠中にその関連性が十分に示されていなければならない。」
「商標は役務の出所を容易に認識できる態様で使用されていなければならない。」

(2)欧州での決定
① 第 25 類の商品についての使用と認められなかった事案
2006 年 12 月 20 日 OHIM
商標権者:McARTHUR/GLEN HOLDINGS LIMITED
CTM登録 :1079219
商 標:McARTHUR GLEN
指定商品:25 類 clothing, footwear and headgear, belts, shoes, ties and scarves
不使用取消請求人:Janusz Mitoraj
概 要:
商標権者が提出した使用証拠「インヴォイス、商標が付された Tシャツ、セーター、フリース等」は、指定商品の証拠と認められない。インヴォイスは商標権者が出資しているグループ会社が発行したもので、T シャツ、フリース、セーターの販売に関するものである。 しかしながら、これらがスタッフのユニフォームや販売促進グッズとして用いられていることが陳述書から明らかである。したがって、提出された使用証拠は retails services には関連しているが、第 25 類の商品に関する使用証拠としては不十分であるとした。
決定書中、以下のコメントが含まれている
「真正な使用は、単に形式上のものではなく、商標により与えられた権利を存続させることを目的としてはじめて認められるものである。かかる使用は商標の本質的な機能を発揮していなければならない。つまり、需要者がその商品や役務を他者のものと混同することなく区別でき、また、同一の出所であることを保障し得るものである必要がある。したがって、対象となる商品・役務の性質や市場の特色、商標の使用頻度やその規模について検討する必要がある。 量がかならずしも重要な要素となるわけではない。」
② 商品についての使用として認められなかった事案
2002 年 10 月 31 日 OHIM
要 点:商品商標の使用証拠は、商標が付された商品が実際に市場で販売されていることを示す態様でなければならない。
商標出願人:REWE-Zentral AG
C T M:1059393
商 標:LANDMARK
指定商品:29、30、32 類
異議申立人:Independent Food Services LTD
先行登録商標:LANDMARK、LANDMARK(ロゴ)イギリス登 録 1055781 号他
概 要:
異議申立人は先行して登録したイギリス商標“LANDMARK” を根拠に異議を申し立てた。欧州共同体商標に対して先行商標を根拠に異議申立を行った場合、出願人の要請があれば、申立人は先行商標が公告日前 5 年の間に真正な使用がされていることを証明する必要がある。(欧州共同体商標理事会規則第 43 条(2))提出された使用証拠(リーフレット)には種々の食料品(飲料、スナック、菓子等)が掲載されているが、商品に付されている商標は “Kit Kat”“Heinz”“Nescafe”等であり、異議の根拠である商標“LANDMARK”は表紙の下欄、背表紙の下欄に示されているのみである。“LANDMARK”はイギリスの小売業者の名称として使用されているものと判断できる。したがって、商品についての真正な使用とは認められず、異議申立を認めないとした。

4.おわりに
商標法により商標が保護されるのは、商標の使用によって信用が化体していると考えるからである。わが国では商標登録にあたって使用 は要件とされず、将来の使用により保護すべき信用が化体することを期待して商標を登録する主義を採っている。しかしながら、登録後継続して3 年以上使用されていなければ、保護すべき信用が発生しないかあるいは発生した信用も消滅しているので、保護の対象がなくなると考えられる。不使用の登録商標に排他独占的権利を与えておくこと は、国民一般の権利を不当に侵害すること、また、第三者の商標選択 の余地を狭めることを防止することを考慮し不使用による商標登録の取消審判の規定を設けている(社団法人発明協会工業所有権法逐条 解説1378 頁)。
商標の使用が関係する規定(商標法第 3 条 1 項柱書、第 3 条 2 項、 第 25 条、第 37 条)は種々存在する。規定の趣旨により、商標の使用に含まれる範囲の解釈が異なるであろうことは理解できる。不使用取消審判を免れるための商標の使用についても制度趣旨、個別の状況に 応じて解釈が異なってくるであろうことも理解はできる。しかしながら、少なくともある程度の予測可能性が担保され、無用な係争を事前に回避できる状況であることが望まれる。不使用取消を免れるための使用につき、小売役務制度導入後に出願された事案あるいは、使用が開始された事案についての裁判所の判断に注目したい。

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執筆者

商標・意匠部アソシエイト 弁理士

高田 雄一郎 たかた ゆういちろう

[業務分野]

意匠 商標

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